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転生したのに魔法適性ゼロ、でも絶対一番になります!  作者: スンスンスン
偽りの神 ~ライゼン編

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16話 赫(あか)

ガルバディア帝国の国境沿い、赤茶けた荒野が広がる最前線。  伝統的な大国『フェルゼン連合王国』の精鋭部隊と、帝国の泥沼の戦争が続くこの場所に、人知を超えた絶望が解き放たれていた。

「撃て! 撃てェッ!! 怯むな!!」

フェルゼン軍の指揮官の怒号と共に、一斉に爆音が轟く。  彼らが装備しているのは、国家の最高機密であり最新鋭の兵器である『鉄砲』だ。火薬の爆発力で鉄の弾丸を撃ち出すその未知の武器は、いかなる強固な鎧をも容易く撃ち抜く圧倒的な威力を誇っていた。

しかし――目の前の現実は、彼らの戦術の常識を完全に破壊していた。

「ガハハハハハッ!!」

爆煙を突き抜けて突撃してくるのは、わずか4人の男たち。だが、その姿はすでに人間のものではなかった。肉体からは悍ましい『黒炎』が噴き出し、その肌は岩のように強靭に変色している。  鉄砲の弾丸が肉を穿っても、強靭な筋肉が弾丸を噛み潰し、瞬時に傷口が塞がっていく。それどころか、彼らが手を振るだけで、何もない空間から爆発的な炎が湧き上がり、フェルゼン軍の防衛陣地を次々と消し炭に変えていった。

「化け物め……! なんだあの炎は、あいつら一体何を使ってやがる……!」

見たこともない謎の超常現象に、フェルゼン軍の指揮官は歯噛みしながら戦況を凝視した。このままでは全滅は必至。だがその時、指揮官の目が、怪物の群れの遥か後方に佇む一人の影を捉えた。

激しい戦火のただ中で、腕を組み、退屈そうに戦場を眺めている緋色の髪の青年。イグニスだ。

(あいつだ……あの男が指示を出している! あの首魁さえ仕留めれば、化け物どもの動きは止まるはずだ!)

「精鋭第5小隊、俺に続け! 敵の後方にいる赤髪の首魁を強襲する!」

指揮官は息を潜め、鉄砲を構えた精鋭兵50人を率いて戦場の外縁を大きく迂回した。そして、完全に油断しているように見えるイグニスの背後へと回り込み、一気にその周囲を完全に包囲した。

「動くな! 貴様の連れている化け物どもに動きを止めさせろ!」

50丁の銃口が、一斉にイグニスの頭部や胸元へと向けられる。  しかし、包囲された当のイグニスは、驚くでもなく、ただピンときていない様子で首を傾げた。その端正な顔には、緊迫感など微塵も存在しない。

「……何だ、お前たちは。邪魔をするな」

「とぼけるな! 従わない場合、お前にはここで死んでもらう!」

指揮官が引き金に指をかけながら鋭く言い放つ。  すると、イグニスは心底不思議そうに、本当に疑問で仕方がないという顔をして問い返してきた。

「お前たちが……俺を、どうやって殺すのだ?」

「頭がいかれたか!? この数の銃の前だ、逃げ場などないぞ!」

「逃げる……? なぜ、俺がそんなことをする必要がある?」

対話は完全に噛み合っていなかった。イグニスにとって、目の前の最新兵器を携えた軍勢は「自分を脅かす敵」ですらなく、ただの羽虫か何かに見えているのだ。

その不遜な態度に、指揮官の堪忍袋の緒が切れた。

「地獄で考えな! ――撃てぇっ!!」

ドン、と50発の銃声が重なり、轟音が荒野に響き渡る。  至近距離から放たれた50発の鉄の暴風。それは確実に、イグニスの肉体を蜂の巣にするはずだった。

――だが。  弾丸は一発たりとも、イグニスの衣服にすら触れなかった。

「な……っ!? 弾が……消えた!?」

敵兵たちが驚愕に目を見開く。  イグニスの周囲数センチの空間――そこは、肉眼では捉えられないほどの超高熱の領域が渦巻いていた。押し寄せた鉛の弾丸は、彼の肉体に届くよりも遥か手前で、一瞬にしてドロドロに融解し、蒸発して消え去ったのだ。

「こんなおもちゃで、俺が殺せるかよ」

イグニスは退屈そうにそう呟くと、ゴミを払うように、優雅に右手を横に振った。

/ゴオッ!!!/

「ぎゃあああああああッ!!」 「熱い! 熱いッ! 身体が、救けてくれぇッ!!」

突如として、50人の兵士たちの身体が燃え上がり、荒野は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図へと変わった。  だが、それは即死を免れるほどの、わざと制御された「弱い炎」だった。肉をじわじわと焼き、皮膚を焦がす激痛に、精鋭たちはのたうち回り、イグニスという規格外の存在に関わってしまったことを骨の髄まで後悔しながら悲鳴を上げ続ける。

「ははは! 弱者とは本当に不憫だな!」

燃え盛る炎に照らされながら、イグニスは愉悦に頬を歪め、声を大にして笑った。

「こうやって俺に不細工に焼かれるのが、お前たちの定めであり、生まれてきた役目だったんだよ!」

ひとしきりその絶叫を堪能したイグニスは、「もういい」とばかりに、もう一度、冷酷に手を振った。  瞬間、炎の熱度が数千度へと一気に跳ね上がる。

シュイン、と短い音が響いた次の瞬間には、50人の悲鳴は完全に途絶えていた。  後に残されたのは、骨まで完全に炭化し、形を保ったままパサパサと風に崩れていく、50体の黒い人型の灰だけだった。

その時、後方から一人の帝国兵が、恐怖でガタガタと全身を震わせながらイグニスへと駆け寄ってきた。

「イ、イグニス様……! ほ、報告いたします! 前線にて、実戦投入していた魔族部隊の内、一体が……敵の集中砲火を浴び、始末されました……!」

「……チッ」  イグニスはあからさまに不快そうな顔になり、自身の緋色の髪を乱暴にかき上げた。

「この程度の有象無象に殺されるとは、まだまだだな。やはり人間の器に因子を混ぜるだけでは限界があるか。出力の調整が甘かったな」

足元の炭化を眺めながら、イグニスは冷酷に言い放つ。 「一度城へ戻って、実験体の再調整メンテナンスだ。次はもっと、壊れない魔物を造る」

戦争の勝敗など、この天才にとっては自分の『作品』のテストに過ぎない。  圧倒的な熱量と人工魔族の恐怖を戦場に残し、イグニスは冷然とその場を後にした。


闇の中から、生き残った上位魔族たちが集まり始めた。彼らは、先ほどの戦場でイグニスが放った凄まじい熱量の余韻を感じ取り、自らの脳内にある『共通意識』の海に深く沈み込んでいた。

この世界に生まれた魔族は、その瞬間に魔界の魔族全体と繋がる『僅かな共通意識』を脳内に植え付けられる。言葉を交わさずとも、魔界の歴史や上位存在の情報を本能的に共有するネットワーク。  その共通意識の底から溢れ出る記憶の残滓が、彼らの創造主である青年が放つ絶大な熱量と、ピタリと一致していた。

「やはり、あの御方は……」

「あぁ。我ら魔族の共通意識が告げている。あの圧倒的な炎、傲慢なまでの自負……あれは間違いなく、かつて魔王軍を統べ、この地で果てた、伝説の四天王の魔力そのもの」

魔族たちは、その本能ゆえに確信していた。

「あなたがどのような姿に変わろうとも……我らはその炎に従うのみにございます」

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