# エピソード106 ## 「運命の電話」
# エピソード106
## 「運命の電話」
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結果発表当日。
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朝。
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恒一はほとんど眠れなかった。
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時計を見る。
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午前六時。
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まだ早い。
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なのに目が覚めてしまった。
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「落ち着け……」
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自分に言い聞かせる。
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だが無理だった。
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新人賞。
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人生で初めて本気で挑戦した賞。
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緊張しない方がおかしい。
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その頃。
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夏音も同じだった。
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朝から部屋をぐるぐる歩き回っている。
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「無理無理無理無理……」
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完全にパニックだった。
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母親に言われる。
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「座りなさい」
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「無理」
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「座りなさい」
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「無理」
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「座れ」
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「はい」
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親は強かった。
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そして。
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昼。
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学校。
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恒一は授業をしていた。
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だが。
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全然集中できない。
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生徒たちも気付いていた。
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「先生」
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「なんだ?」
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「今日変です」
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「いつも変だろ」
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教室が笑いに包まれる。
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その時。
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ポケットのスマホが震えた。
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ブルッ。
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恒一の心臓が跳ねる。
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画面を見る。
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黒川。
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一瞬。
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時間が止まった。
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「……」
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授業中。
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だが。
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そんなことを考えている余裕はなかった。
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「自習!」
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生徒たち。
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「ええええ!?」
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恒一は教室を飛び出した。
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廊下。
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誰もいない場所。
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震える手で電話を取る。
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「もしもし」
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黒川は静かだった。
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妙に静かだった。
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それが逆に怖い。
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「先生」
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「はい」
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「落ち着いて聞いてください」
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心臓が痛いほど鳴る。
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「はい」
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数秒。
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沈黙。
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そして。
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黒川は言った。
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「まず先生」
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「はい」
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「おめでとうございます」
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恒一の思考が止まる。
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「……え?」
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「最終選考に残りました」
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世界が揺れた。
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最終選考。
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全国から集まった作品。
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その中の数作品だけ。
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夢の舞台。
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「本当に……?」
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声が震える。
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「本当です」
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恒一は壁にもたれた。
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力が抜ける。
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涙が出そうだった。
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だが。
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まだ終わらない。
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黒川は続けた。
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「そして」
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恒一が息を呑む。
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「夏音さんですが」
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その名前を聞いた瞬間。
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胸が締め付けられる。
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自分より気になる。
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夏音はどうだったのか。
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黒川は少しだけ笑った。
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そして。
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言った。
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「受賞です」
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「……え?」
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「新人賞」
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「大賞受賞です」
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恒一は完全に固まった。
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理解が追いつかない。
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「大賞……?」
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「はい」
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「大賞です」
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数秒。
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十秒。
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二十秒。
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沈黙。
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黒川が心配になる。
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「先生?」
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その時。
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恒一は笑った。
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そして。
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泣いた。
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「やった……」
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「やったな……夏音……」
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声が震える。
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自分のことのように嬉しかった。
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いや。
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自分のこと以上に嬉しかった。
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電話を切る。
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すぐに夏音へ電話する。
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一回。
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二回。
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三回。
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出ない。
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すると。
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逆に電話がかかってきた。
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出る。
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「先生!!」
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泣き声だった。
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完全に泣いていた。
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「先生ぃぃぃ!!」
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「夏音!!」
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「受賞しましたぁぁぁ!!」
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「知ってる!!」
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「え?」
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「黒川さんから聞いた!!」
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夏音はさらに泣き始めた。
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「信じられません!!」
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「俺もだ!!」
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二人とも泣いていた。
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電話越しに。
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笑いながら。
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泣きながら。
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言葉にならない声を上げていた。
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そして。
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少し落ち着いた頃。
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夏音が言う。
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「先生」
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「ん?」
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「私」
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「先生に会わなかったら」
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「ここまで来られませんでした」
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恒一は目を閉じた。
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秋の風が吹く。
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「違う」
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静かに言う。
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「ここまで来たのは」
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「夏音が頑張ったからだ」
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電話の向こう。
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すすり泣く声。
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そして。
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「ありがとうございます」
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その一言だけだった。
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だが。
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それで十分だった。
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夢は叶った。
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いや。
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夢への扉が開いた。
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そして。
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誰も知らない。
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この受賞が。
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日本中を巻き込む物語の始まりになることを――。
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### 次回
# エピソード107
## 「大賞受賞作家」
ニュースになる夏音。
学校中が大騒ぎ。
そして出版社から届く新たな提案。
夢の先に待っていたものとは――。




