# エピソード104 ## 「新人賞の夜」
# エピソード104
## 「新人賞の夜」
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締切当日。
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午後十一時二十分。
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恒一の部屋。
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静かだった。
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聞こえるのは。
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キーボードを叩く音だけ。
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カタカタカタ――
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画面には。
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『79,862文字』
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あと少し。
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あと少しで終わる。
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だが。
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一番難しいのは最後だった。
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物語の締め。
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主人公が最後に何を言うのか。
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何を選ぶのか。
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その一行が決まらない。
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恒一は目を閉じた。
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考える。
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考える。
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考える。
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そして。
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ふと。
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ある顔が浮かんだ。
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夏音。
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初めて出会った日。
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泣きながら原稿を見せてきた少女。
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夢を諦めかけていた少女。
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そして今。
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誰よりも夢に向かって走っている少女。
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恒一は小さく笑った。
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「そういうことか」
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指が動く。
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最後の文章を書く。
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そして。
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画面に表示された。
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『80,001文字』
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完成。
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恒一はしばらく動けなかった。
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信じられなかった。
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何年も。
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何年も書きたかった物語。
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途中で諦めた夜もある。
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原稿を閉じた日もある。
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もう無理だと思った日もある。
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それでも。
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今。
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終わった。
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その瞬間。
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スマホが鳴る。
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夏音だった。
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『先生!!』
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メッセージが飛んでくる。
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『終わりました!!』
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恒一は思わず笑う。
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『俺もだ』
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数秒後。
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電話がかかってきた。
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出る。
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「先生!!」
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開口一番。
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大声だった。
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「終わりましたあああ!!」
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「知ってる」
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「完成しました!!」
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「知ってる」
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「やりました!!」
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「知ってるって」
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夏音は興奮していた。
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完全に興奮していた。
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だが。
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恒一も同じだった。
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少しだけ。
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声が震えている。
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「夏音」
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「はい」
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「お疲れ」
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電話の向こう。
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少し静かになる。
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そして。
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「先生も」
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優しい声だった。
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「お疲れさまでした」
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その言葉だけで。
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胸が熱くなった。
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時刻。
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午後十一時五十五分。
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締切五分前。
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二人はそれぞれ。
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応募フォームを開く。
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作品名。
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名前。
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確認。
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添付ファイル。
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問題なし。
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送信ボタン。
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あと一回押せば終わる。
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だが。
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なぜか指が止まる。
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怖かった。
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夢だから。
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本気だから。
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結果が怖い。
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落ちたらどうしよう。
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笑われたらどうしよう。
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そんな不安が押し寄せる。
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その時。
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電話の向こうで。
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夏音が言った。
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「先生」
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「ん?」
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「一緒に押しませんか」
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恒一は笑う。
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「子供か」
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「大事なんです」
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「はいはい」
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二人は画面を見る。
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深呼吸。
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そして。
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「せーの」
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カチッ。
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送信。
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送信完了。
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その文字が表示された。
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終わった。
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本当に終わった。
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数秒。
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二人とも何も言わない。
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そして。
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夏音が泣き始めた。
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「終わったぁ……」
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安心した涙だった。
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恒一も目頭が熱くなる。
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「頑張ったな」
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「はい……」
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「本当に頑張った」
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夏音は何度も頷いた。
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夜空には星が見えていた。
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夢への挑戦。
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その第一歩が。
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今。
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確かに刻まれた。
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結果はまだ分からない。
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受賞するかも分からない。
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だけど。
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挑戦した。
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逃げなかった。
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その事実だけは変わらない。
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そして。
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二人は知らなかった。
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数か月後。
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この新人賞が。
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二人の運命を大きく動かすことになることを――。
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### 次回
# エピソード105
## 「結果発表までの日々」
待つことしかできない時間。
焦り。
不安。
そして少しずつ変わっていく恒一と夏音の関係。
運命の発表まで、あと三か月――。




