# エピソード103 ## 「二人の締切地獄」
# エピソード103
## 「二人の締切地獄」
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夏休み。
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それは本来。
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学生にとって楽しい季節である。
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海。
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花火。
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旅行。
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友達との思い出。
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しかし。
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恒一と夏音には関係なかった。
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なぜなら。
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「終わらない……」
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原稿が終わらないからだ。
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午前二時。
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恒一の部屋。
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机の上には空になったコーヒーカップ。
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ノート。
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資料。
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そしてパソコン。
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画面には。
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『現在 38,412文字』
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と表示されていた。
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「まだ半分かよ……」
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恒一は天井を見上げた。
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新人賞の規定は八万文字以上。
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まだ先は長い。
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すると。
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スマホが震える。
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夏音からだった。
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『先生』
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『助けてください』
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恒一は嫌な予感がした。
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『どうした』
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数秒後。
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写真が送られてくる。
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そこには。
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机に突っ伏した夏音。
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その横には大量の原稿。
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さらに。
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『現在 21,000文字』
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の表示。
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『主人公が動いてくれません』
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恒一は吹き出した。
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『キャラが反抗期か』
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『完全に反抗期です』
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『作者の言うこと聞きません』
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『よくある』
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『よくあるんですか!?』
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『作家あるあるだ』
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夏音は絶望した。
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その頃。
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東京。
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出版社。
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黒川は頭を抱えていた。
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「嫌な予感しかしない」
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玲奈が苦笑する。
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「まだ締切一か月前ですよ」
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「だから怖いんです」
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黒川は断言した。
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「新人は最後に必ず慌てる」
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そして。
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その予感は当たった。
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締切二週間前。
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「終わらない!」
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夏音絶叫。
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締切十日前。
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「終わらない!」
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恒一絶叫。
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締切一週間前。
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二人同時。
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「終わらない!!」
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黒川。
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「予想通り」
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玲奈。
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「予想通りですね」
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そして。
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締切五日前。
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出版社主催。
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緊急オンライン会議。
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画面には。
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恒一。
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夏音。
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黒川。
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玲奈。
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四人。
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黒川が言う。
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「状況報告」
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夏音。
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「七万文字です」
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「よし」
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恒一。
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「六万五千文字です」
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「危険」
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即答だった。
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恒一が傷つく。
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「そこまで言う?」
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「言います」
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黒川は容赦しない。
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「先生」
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「はい」
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「寝てください」
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「無理です」
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「寝てください」
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「無理です」
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「寝ろ」
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「はい」
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圧勝だった。
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その時。
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玲奈が笑う。
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「でも」
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「二人とも顔が楽しそうですよ」
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恒一と夏音は顔を見合わせた。
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確かに。
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大変だ。
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苦しい。
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眠い。
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締切は怖い。
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それでも。
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昔とは違った。
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夢のために苦しんでいる。
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そのことが。
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少しだけ嬉しかった。
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会議が終わった後。
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夏音からメッセージが届く。
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『先生』
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『ん?』
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『絶対に完成させましょう』
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恒一は笑った。
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『当たり前だ』
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『約束です』
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『約束だ』
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スマホを置く。
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窓の外を見る。
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夏の終わりが近づいていた。
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だけど。
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二人の物語は。
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今。
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一番熱い夏を迎えていた――。
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### 次回
# エピソード104
## 「新人賞の夜」
締切当日。
最後の一行。
最後の一文字。
そして送信ボタンを押す瞬間――。
夢への第一歩が、ついに刻まれる。




