表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
93/101

## 「夏音のお願い」

# エピソード102


## 「夏音のお願い」


---


花火大会が終わった。


---


祭りの賑わいも少しずつ静かになっていく。


---


屋台の灯り。


---


遠くから聞こえる笑い声。


---


夏の夜風が心地よかった。


---


恒一と夏音は並んで歩く。


---


神社から駅へ向かう帰り道。


---


しばらく。


---


二人とも何も話さなかった。


---


沈黙が嫌ではない。


---


むしろ心地よかった。


---


すると。


---


夏音が小さく口を開く。


---


「先生」


---


「ん?」


---


「お願いがあるんです」


---


恒一は足を止める。


---


「珍しいな」


---


「そんな改まって」


---


夏音は少しだけ緊張していた。


---


浴衣の袖をぎゅっと握る。


---


何度も言おうとして。


---


言葉が出てこない。


---


「夏音?」


---


「……笑わないでくださいね」


---


「内容による」


---


「もう」


---


夏音が頬を膨らませる。


---


恒一は笑った。


---


その笑顔を見て。


---


少しだけ勇気が出た。


---


「私」


---


「新しい小説を書くんです」


---


「おう」


---


「今度は長編です」


---


「いいじゃないか」


---


夏音は頷く。


---


そして。


---


意を決したように言った。


---


「主人公のモデルに」


---


「先生を使ってもいいですか?」


---


恒一。


---


完全停止。


---


「……は?」


---


数秒。


---


理解が追いつかない。


---


「俺?」


---


「はい」


---


「なんで?」


---


夏音は少し照れながら笑った。


---


「だって」


---


「先生みたいな人を書きたいんです」


---


恒一は頭を抱えた。


---


「やめろ」


---


「恥ずかしい」


---


「嫌です」


---


即答だった。


---


「もう決めてます」


---


「おい」


---


夏音は楽しそうだった。


---


だが。


---


次の言葉は少し真面目だった。


---


「先生は」


---


「誰かの夢を応援できる人です」


---


「誰かのために頑張れる人です」


---


「そういう人を書きたいんです」


---


恒一は何も言えなかった。


---


教師になって。


---


悩んだこともある。


---


失敗したこともある。


---


自分は立派な人間じゃない。


---


そう思っていた。


---


だけど。


---


夏音の目には。


---


違って見えていた。


---


「だから」


---


夏音は笑う。


---


「貸してください」


---


「先生の人生」


---


恒一は苦笑した。


---


「安い貸し出し料だな」


---


「ベストセラーになったら考えます」


---


「取る気満々じゃないか」


---


二人は笑った。


---


夜空にはまだ花火の煙が残っている。


---


その時。


---


夏音が立ち止まった。


---


少しだけ真剣な顔。


---


「先生」


---


「ん?」


---


「もう一つお願いがあります」


---


恒一が振り返る。


---


今度は。


---


さっきよりも緊張しているように見えた。


---


夏音は深呼吸する。


---


そして。


---


小さな声で言った。


---


「次の新人賞」


---


「私も一緒に挑戦していいですか?」


---


恒一は目を見開いた。


---


「夏音も?」


---


「はい」


---


「先生と並びたいんです」


---


「追いかけるだけじゃなくて」


---


「隣で頑張りたい」


---


その言葉は。


---


まっすぐだった。


---


恒一は笑った。


---


心から。


---


「もちろんだ」


---


「一緒にやろう」


---


夏音の顔がぱっと明るくなる。


---


「はい!」


---


夏の夜。


---


二人は並んで歩き出す。


---


夢へ向かう道。


---


まだ遠い。


---


でも。


---


一人じゃない。


---


だからきっと進める。


---


そう信じられる夜だった。


---


### 次回


# エピソード103


## 「二人の締切地獄」


新人賞へ向けて動き出した恒一と夏音。


しかし待っていたのは――


終わらない執筆。


減っていく睡眠時間。


迫りくる締切。


夢を追う者たちの過酷な戦いが始まる!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ