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92/101

## エピソード101 ### 「夏祭りの約束」

# 第二部


## エピソード101


### 「夏祭りの約束」


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東京から帰ってきて一週間。


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学校は夏休みに入っていた。


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蝉の声。


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青い空。


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入道雲。


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まさに夏だった。


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恒一は職員室で仕事をしていた。


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「暑い……」


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冷房は効いている。


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だが。


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気分は夏バテ寸前だった。


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そんな時。


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スマホが震える。


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送り主。


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夏音。


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恒一は少し笑う。


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最近は原稿の相談で連絡を取ることも増えていた。


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メッセージを開く。


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そこに書かれていた言葉。


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『先生』


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『今週の土曜日』


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『空いてますか?』


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恒一は首を傾げる。


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『どうした?』


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数秒後。


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返信。


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『夏祭り』


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『一緒に行きませんか?』


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恒一は固まった。


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職員室で固まった。


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三秒。


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五秒。


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十秒。


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「……夏祭り?」


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思わず声が出る。


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隣の教師が振り向いた。


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「どうした?」


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「いえ何でもありません」


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慌てて誤魔化す。


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心臓は少し速かった。


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結局。


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『行こう』


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と返信した。


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その瞬間。


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『やったー!!』


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と返ってきた。


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絵文字が五個も付いていた。


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恒一は思わず笑う。


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「子供か」


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だが。


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その笑顔は優しかった。


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そして迎えた土曜日。


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夕方。


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祭り会場の神社。


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屋台。


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提灯。


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賑やかな声。


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夏の匂い。


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恒一は待ち合わせ場所へ向かう。


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すると。


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遠くから聞こえた。


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「先生ー!」


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聞き慣れた声。


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振り向く。


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そして。


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固まった。


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浴衣だった。


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淡い水色。


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小さな花柄。


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髪はまとめられている。


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いつもの制服姿とはまるで違う。


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夏音だった。


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「どうですか?」


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くるりと回る。


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「変じゃないですか?」


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恒一は答えられない。


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数秒。


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沈黙。


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夏音が不安になる。


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「先生?」


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その時。


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恒一はようやく言葉を絞り出した。


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「……似合ってる」


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夏音が止まる。


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顔が赤くなる。


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「そ、そうですか」


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「うん」


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「すごく」


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夏音は俯いた。


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嬉しそうだった。


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そして。


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小さく呟く。


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「頑張ってよかった」


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「ん?」


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「何でもありません」


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夏音は笑った。


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祭りが始まる。


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金魚すくい。


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かき氷。


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射的。


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二人は普通に楽しんだ。


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まるで。


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先生と生徒ではなく。


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ただの友達みたいに。


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いや。


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それ以上に自然だった。


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そして。


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夜。


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花火の時間。


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神社裏の小高い丘。


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人混みから少し離れた場所。


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ドーン。


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夜空に大輪の花が咲く。


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赤。


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青。


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金色。


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美しかった。


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夏音は花火を見上げる。


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「綺麗ですね」


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「そうだな」


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その時だった。


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夏音がぽつりと言う。


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「先生」


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「ん?」


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「約束してください」


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恒一が見る。


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夏音は花火を見たまま。


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言った。


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「どんなに有名になっても」


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「どんな未来になっても」


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「私たち」


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少し笑う。


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「今みたいに話せますよね?」


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恒一は答える。


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迷いなく。


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「ああ」


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「約束だ」


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夏音は嬉しそうに笑った。


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その瞬間。


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夜空に。


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今年一番大きな花火が咲いた。


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まるで。


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二人の約束を祝福するように――。


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### 次回


# エピソード102


## 「夏音のお願い」


祭りの帰り道。


夏音が勇気を出して伝える一つのお願い。


その言葉に恒一は思わず立ち止まる――。

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