## エピソード101 ### 「夏祭りの約束」
# 第二部
## エピソード101
### 「夏祭りの約束」
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東京から帰ってきて一週間。
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学校は夏休みに入っていた。
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蝉の声。
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青い空。
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入道雲。
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まさに夏だった。
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恒一は職員室で仕事をしていた。
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「暑い……」
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冷房は効いている。
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だが。
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気分は夏バテ寸前だった。
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そんな時。
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スマホが震える。
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送り主。
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夏音。
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恒一は少し笑う。
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最近は原稿の相談で連絡を取ることも増えていた。
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メッセージを開く。
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そこに書かれていた言葉。
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『先生』
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『今週の土曜日』
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『空いてますか?』
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恒一は首を傾げる。
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『どうした?』
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数秒後。
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返信。
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『夏祭り』
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『一緒に行きませんか?』
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恒一は固まった。
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職員室で固まった。
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三秒。
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五秒。
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十秒。
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「……夏祭り?」
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思わず声が出る。
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隣の教師が振り向いた。
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「どうした?」
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「いえ何でもありません」
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慌てて誤魔化す。
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心臓は少し速かった。
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結局。
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『行こう』
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と返信した。
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その瞬間。
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『やったー!!』
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と返ってきた。
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絵文字が五個も付いていた。
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恒一は思わず笑う。
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「子供か」
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だが。
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その笑顔は優しかった。
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そして迎えた土曜日。
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夕方。
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祭り会場の神社。
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屋台。
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提灯。
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賑やかな声。
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夏の匂い。
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恒一は待ち合わせ場所へ向かう。
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すると。
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遠くから聞こえた。
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「先生ー!」
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聞き慣れた声。
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振り向く。
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そして。
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固まった。
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浴衣だった。
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淡い水色。
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小さな花柄。
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髪はまとめられている。
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いつもの制服姿とはまるで違う。
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夏音だった。
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「どうですか?」
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くるりと回る。
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「変じゃないですか?」
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恒一は答えられない。
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数秒。
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沈黙。
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夏音が不安になる。
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「先生?」
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その時。
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恒一はようやく言葉を絞り出した。
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「……似合ってる」
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夏音が止まる。
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顔が赤くなる。
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「そ、そうですか」
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「うん」
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「すごく」
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夏音は俯いた。
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嬉しそうだった。
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そして。
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小さく呟く。
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「頑張ってよかった」
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「ん?」
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「何でもありません」
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夏音は笑った。
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祭りが始まる。
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金魚すくい。
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かき氷。
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射的。
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二人は普通に楽しんだ。
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まるで。
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先生と生徒ではなく。
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ただの友達みたいに。
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いや。
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それ以上に自然だった。
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そして。
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夜。
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花火の時間。
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神社裏の小高い丘。
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人混みから少し離れた場所。
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ドーン。
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夜空に大輪の花が咲く。
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赤。
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青。
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金色。
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美しかった。
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夏音は花火を見上げる。
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「綺麗ですね」
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「そうだな」
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その時だった。
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夏音がぽつりと言う。
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「先生」
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「ん?」
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「約束してください」
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恒一が見る。
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夏音は花火を見たまま。
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言った。
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「どんなに有名になっても」
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「どんな未来になっても」
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「私たち」
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少し笑う。
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「今みたいに話せますよね?」
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恒一は答える。
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迷いなく。
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「ああ」
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「約束だ」
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夏音は嬉しそうに笑った。
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その瞬間。
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夜空に。
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今年一番大きな花火が咲いた。
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まるで。
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二人の約束を祝福するように――。
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### 次回
# エピソード102
## 「夏音のお願い」
祭りの帰り道。
夏音が勇気を出して伝える一つのお願い。
その言葉に恒一は思わず立ち止まる――。




