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91/101

# エピソード100 ## 「帰りの新幹線」

# エピソード100


## 「帰りの新幹線」


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東京駅。


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夕暮れ。


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オレンジ色の光がホームを染めていた。


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長かった一日。


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出版社。


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映像化の話。


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新人賞への挑戦。


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人生が変わるような出来事ばかりだった。


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そして今。


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二人は帰りの新幹線に乗っていた。


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窓際に夏音。


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その隣に恒一。


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発車ベルが鳴る。


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ゆっくりと東京の景色が遠ざかっていく。


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しばらく。


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誰も話さなかった。


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疲れていた。


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だけど。


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心地よい沈黙だった。


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夏音は窓の外を見る。


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流れていく景色。


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今日の出来事が頭の中を何度も巡っていた。


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「先生」


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ぽつりと呟く。


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「ん?」


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「夢って」


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少し考えて。


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続けた。


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「叶うんですね」


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恒一は笑った。


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「まだ途中だろ」


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「そうですけど」


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夏音も笑う。


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「昔は」


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「夢なんて叶う人だけが叶うものだと思ってました」


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「自分には関係ないって」


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恒一は黙って聞いていた。


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「でも」


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「先生に会って変わりました」


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静かな声。


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だけど真っ直ぐだった。


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「書いていいんだって思えた」


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「夢を見てもいいんだって思えた」


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恒一は少し照れる。


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「俺は何もしてないよ」


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「しました」


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即答だった。


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「いっぱい」


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夏音は笑った。


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「先生は気付いてないだけです」


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恒一は返事ができなかった。


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教師になってよかった。


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そう思えた瞬間だった。


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しばらくして。


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列車は山間部へ入る。


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夕焼けが綺麗だった。


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夏音はその景色を見ながら言う。


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「私」


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少しだけ声が震える。


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「怖かったんです」


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恒一が見る。


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「何が?」


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「一人になるのが」


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夏音は微笑んだ。


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寂しそうな笑顔だった。


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「本が売れても」


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「有名になっても」


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「一人だったら意味ないなって」


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その言葉に。


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恒一の胸が少し苦しくなる。


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「夏音」


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呼ぶと。


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彼女は顔を向けた。


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「お前は一人じゃない」


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自然に出た言葉だった。


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「これからも」


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「読者がいる」


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「編集者もいる」


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「黒川さんもいる」


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そして。


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少しだけ笑う。


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「俺もいる」


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夏音の目が大きくなる。


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数秒。


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何も言わなかった。


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やがて。


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小さく頷いた。


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「……はい」


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その声は。


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少しだけ嬉しそうだった。


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新幹線は走り続ける。


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夜が近付く。


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車内の灯りが点いた。


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その時。


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夏音が小さな声で言った。


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「先生」


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「ん?」


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「もし」


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言葉を探すように。


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ゆっくりと続ける。


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「もし私が」


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「もっと有名になっても」


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「先生は先生でいてくれますか?」


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恒一は笑った。


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「当たり前だろ」


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「有名作家になったからって」


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「急に敬語使えって言われても困る」


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夏音が吹き出す。


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「言いませんよ」


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「だろ?」


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二人は笑った。


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だけど。


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その笑顔の奥に。


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少しだけ特別な感情があった。


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まだ名前のない想い。


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友情か。


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憧れか。


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それとも。


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もっと別の何かか。


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二人とも。


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まだ知らない。


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だけど。


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確かなことが一つだけあった。


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東京からの帰り道。


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この時間は。


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きっと一生忘れない。


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夢へ向かう列車の中で。


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二人は少しだけ。


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未来へ近付いていた――。


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## 第一部 完


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### 次回


# 第二部 開幕


## エピソード101


### 「夏祭りの約束」


夏休み。


久しぶりに訪れた穏やかな日々。


浴衣姿の夏音。


そして恒一が思わず見惚れてしまう瞬間――。


夢だけじゃない。


二人の距離も少しずつ変わり始める。

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