# エピソード100 ## 「帰りの新幹線」
# エピソード100
## 「帰りの新幹線」
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東京駅。
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夕暮れ。
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オレンジ色の光がホームを染めていた。
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長かった一日。
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出版社。
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映像化の話。
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新人賞への挑戦。
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人生が変わるような出来事ばかりだった。
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そして今。
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二人は帰りの新幹線に乗っていた。
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窓際に夏音。
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その隣に恒一。
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発車ベルが鳴る。
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ゆっくりと東京の景色が遠ざかっていく。
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しばらく。
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誰も話さなかった。
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疲れていた。
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だけど。
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心地よい沈黙だった。
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夏音は窓の外を見る。
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流れていく景色。
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今日の出来事が頭の中を何度も巡っていた。
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「先生」
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ぽつりと呟く。
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「ん?」
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「夢って」
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少し考えて。
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続けた。
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「叶うんですね」
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恒一は笑った。
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「まだ途中だろ」
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「そうですけど」
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夏音も笑う。
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「昔は」
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「夢なんて叶う人だけが叶うものだと思ってました」
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「自分には関係ないって」
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恒一は黙って聞いていた。
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「でも」
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「先生に会って変わりました」
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静かな声。
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だけど真っ直ぐだった。
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「書いていいんだって思えた」
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「夢を見てもいいんだって思えた」
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恒一は少し照れる。
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「俺は何もしてないよ」
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「しました」
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即答だった。
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「いっぱい」
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夏音は笑った。
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「先生は気付いてないだけです」
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恒一は返事ができなかった。
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教師になってよかった。
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そう思えた瞬間だった。
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しばらくして。
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列車は山間部へ入る。
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夕焼けが綺麗だった。
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夏音はその景色を見ながら言う。
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「私」
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少しだけ声が震える。
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「怖かったんです」
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恒一が見る。
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「何が?」
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「一人になるのが」
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夏音は微笑んだ。
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寂しそうな笑顔だった。
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「本が売れても」
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「有名になっても」
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「一人だったら意味ないなって」
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その言葉に。
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恒一の胸が少し苦しくなる。
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「夏音」
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呼ぶと。
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彼女は顔を向けた。
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「お前は一人じゃない」
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自然に出た言葉だった。
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「これからも」
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「読者がいる」
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「編集者もいる」
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「黒川さんもいる」
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そして。
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少しだけ笑う。
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「俺もいる」
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夏音の目が大きくなる。
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数秒。
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何も言わなかった。
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やがて。
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小さく頷いた。
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「……はい」
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その声は。
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少しだけ嬉しそうだった。
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新幹線は走り続ける。
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夜が近付く。
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車内の灯りが点いた。
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その時。
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夏音が小さな声で言った。
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「先生」
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「ん?」
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「もし」
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言葉を探すように。
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ゆっくりと続ける。
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「もし私が」
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「もっと有名になっても」
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「先生は先生でいてくれますか?」
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恒一は笑った。
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「当たり前だろ」
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「有名作家になったからって」
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「急に敬語使えって言われても困る」
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夏音が吹き出す。
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「言いませんよ」
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「だろ?」
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二人は笑った。
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だけど。
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その笑顔の奥に。
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少しだけ特別な感情があった。
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まだ名前のない想い。
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友情か。
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憧れか。
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それとも。
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もっと別の何かか。
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二人とも。
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まだ知らない。
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だけど。
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確かなことが一つだけあった。
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東京からの帰り道。
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この時間は。
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きっと一生忘れない。
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夢へ向かう列車の中で。
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二人は少しだけ。
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未来へ近付いていた――。
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## 第一部 完
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### 次回
# 第二部 開幕
## エピソード101
### 「夏祭りの約束」
夏休み。
久しぶりに訪れた穏やかな日々。
浴衣姿の夏音。
そして恒一が思わず見惚れてしまう瞬間――。
夢だけじゃない。
二人の距離も少しずつ変わり始める。




