# エピソード99 ## 「人生が変わる話」
# エピソード99
## 「人生が変わる話」
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静まり返る会議室。
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神谷の言葉が残っていた。
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「人生が変わる話をしよう」
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恒一はごくりと唾を飲み込む。
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夏音も不安そうに隣を見た。
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神谷は一冊のファイルを机に置いた。
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「先生の原稿」
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「全部読んだ」
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「面白かった」
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恒一の胸が高鳴る。
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「ありがとうございます」
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神谷は続ける。
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「正直に言う」
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「まだ荒い」
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「文章も未完成だ」
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恒一は苦笑した。
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その評価は予想していた。
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だが。
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神谷は次の瞬間。
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「それでも読ませる力がある」
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「主人公に会いたくなる」
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「続きが気になる」
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「これは才能だ」
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恒一は言葉を失った。
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何年ぶりだろう。
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自分の夢を。
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真正面から認めてもらえたのは。
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神谷は資料を差し出す。
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「出版社として提案がある」
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黒川も真剣な顔だった。
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玲奈も頷く。
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「先生の作品を」
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「新人賞に出したい」
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「……え?」
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恒一の思考が止まる。
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新人賞。
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プロを目指す人間なら誰もが知る舞台。
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「本気ですか?」
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黒川が答えた。
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「本気です」
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「編集部全員一致でした」
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恒一は思わず椅子から立ち上がった。
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「俺が?」
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「はい」
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「先生です」
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夏音の顔がぱっと明るくなる。
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「先生!」
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まるで自分のことのように嬉しそうだった。
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しかし。
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神谷は静かに続けた。
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「ただし」
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その一言で空気が変わる。
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「作家になるなら」
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「覚悟が必要だ」
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会議室が静まる。
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「教師を続けながら書くのは可能だ」
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「だが中途半端では無理だ」
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「人生の時間を削ることになる」
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恒一は黙った。
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神谷の言葉は重かった。
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夢。
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だが。
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夢だけでは生きていけない。
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学校。
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生徒たち。
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今の生活。
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失いたくないものもある。
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神谷は言った。
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「どちらを選べという話ではない」
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「本気で両方やる覚悟があるか」
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それが問われていた。
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恒一は俯く。
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そして。
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夏音が小さく声を出した。
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「先生」
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恒一が顔を上げる。
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夏音の目には涙が浮かんでいた。
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「私」
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「先生に救われたんです」
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会議室の全員が静かに聞いていた。
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「書くことを教えてくれた」
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「夢を諦めなくていいって教えてくれた」
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涙が一粒落ちる。
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「だから」
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「先生だけが夢を諦めるのは嫌です」
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恒一は息を呑む。
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夏音は泣きながら笑った。
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「ずるいです」
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「私だけ夢が叶うなんて」
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その言葉は。
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誰よりも真っ直ぐだった。
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恒一の胸に深く刺さる。
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ずっと。
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心のどこかで。
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自分はもう遅いと思っていた。
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教師になった。
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もう夢を追う年齢じゃない。
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そう思っていた。
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だが。
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目の前の少女は。
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自分の言葉を信じていた。
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恒一は笑った。
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少しだけ涙ぐみながら。
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「参ったな」
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そして。
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神谷を見る。
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黒川を見る。
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玲奈を見る。
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最後に。
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夏音を見る。
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「挑戦します」
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はっきりと言った。
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「教師も続ける」
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「作家も諦めない」
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「両方やります」
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神谷が笑った。
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黒川も珍しく満足そうだった。
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玲奈は拍手した。
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夏音は涙を拭きながら笑う。
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「先生らしいです」
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窓の外。
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東京の空は晴れていた。
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新しい物語が始まる。
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まだ何者でもない二人。
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だけど。
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夢へ向かう道は。
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確かに目の前に続いていた――。
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### 次回
# エピソード100
## 「帰りの新幹線」
東京での一日を終えた二人。
夕暮れの新幹線。
隣同士の座席。
そこで夏音が語る、本当の気持ち。
そして恒一もまた、胸に秘めた想いに気づき始める――。
**ついに記念すべき第100話へ。**




