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# エピソード98 ## 「映像化の話」

# エピソード98


## 「映像化の話」


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「ええええええええええっ!?」


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会議室に響く声。


もちろん夏音だった。


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「映像化!?」


「映画ですか!?」


「ドラマですか!?」


「アニメですか!?」


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玲奈は苦笑した。


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「落ち着いてください」


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「まだ候補です」


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夏音は椅子に座り直した。


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「は、はい……」


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全然落ち着いていない。


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恒一も隣で固まっていた。


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「いや……」


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「候補でも十分すごいだろ……」


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黒川が資料を開く。


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「現在、複数の制作会社が若い世代向けの青春作品を探しています」


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「その中で」


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「夏音さんの作品が注目されています」


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夏音は信じられなかった。


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高校の図書室。


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ノートに書き始めた物語。


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誰にも見せられなかった物語。


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泣きながら書いた夜もあった。


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「私の小説が……」


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小さく呟く。


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「そんな……」


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玲奈が優しく微笑む。


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「読者の心を動かしたんです」


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「だから候補になった」


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その言葉は何より嬉しかった。


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しかし。


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玲奈の表情が少し真面目になる。


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「ですが」


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会議室の空気が変わる。


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「映像化の世界は甘くありません」


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夏音が顔を上げた。


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「え?」


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「原作がそのまま映像になることは少ないです」


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「キャラクター」


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「展開」


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「ラスト」


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「変更される場合もあります」


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夏音は黙った。


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自分の大切な作品。


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それが変わるかもしれない。


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「そんな……」


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少しだけ寂しそうな顔。


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すると。


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恒一が口を開いた。


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「でも」


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全員が見る。


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「作品を好きになってくれる人が増えるなら」


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「それも一つの形じゃないか」


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夏音は隣を見る。


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恒一は笑っていた。


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「作者は夏音だろ?」


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「作品の価値は変わらない」


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その言葉に。


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夏音の肩の力が抜けた。


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「……はい」


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玲奈も頷く。


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「良い先生ですね」


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恒一は少し照れた。


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「ただのファンですよ」


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「一番近くにいるファンです」


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夏音の顔が真っ赤になる。


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黒川は咳払いした。


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「話を戻します」


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「実は今日」


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「もう一人」


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「お会いしてもらう方がいます」


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「え?」


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ドアが開いた。


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現れたのは。


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四十代くらいの男性。


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穏やかな目。


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どこか優しい雰囲気。


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玲奈が紹介する。


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「映像プロデューサーの」


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「神谷拓真さんです」


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神谷は二人に頭を下げた。


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「初めまして」


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「君たちの作品を読ませてもらった」


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そして。


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夏音を見る。


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「泣いたよ」


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夏音は息を呑んだ。


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「え……」


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「久しぶりだった」


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「読み終わったあとに誰かに会いたくなった作品は」


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神谷は笑う。


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「だから直接会いたかった」


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夏音の目から涙がこぼれた。


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作者にとって。


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これ以上ない言葉だった。


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その様子を見て。


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恒一も胸が熱くなる。


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だが。


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神谷は次に。


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恒一の方を向いた。


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「そして先生」


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「あなたの原稿も読んだ」


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恒一が固まる。


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「え?」


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神谷は真剣な顔で言った。


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「あなた」


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「本気で作家になる気はありますか?」


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会議室の空気が止まる。


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恒一の夢。


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何度も諦めかけた夢。


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その夢への問いだった。


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「俺は……」


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恒一は拳を握る。


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そして。


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ゆっくり答えた。


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「あります」


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神谷は満足そうに頷いた。


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「なら」


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「人生が変わる話をしよう」


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その瞬間。


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黒川と玲奈が静かに微笑んだ。


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どうやら。


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今日最大の話は。


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まだ始まってすらいなかった――。


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### 次回


# エピソード99


## 「人生が変わる話」


プロデューサー神谷が提示した衝撃の条件。


作家への道。


教師としての人生。


恒一は大きな決断を迫られる――。


そして夏音が初めて見せる涙の理由とは。


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