# エピソード97 ## 「初めての東京」
# エピソード97
## 「初めての東京」
朝六時。
まだ少し眠そうな空の下。
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夏音は大きなキャリーケースを握りしめていた。
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駅前。
待ち合わせ場所。
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「早すぎたかな……」
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そう呟いた瞬間。
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「おはよう」
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聞き慣れた声。
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恒一だった。
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シャツにジャケット。
いつもより少しだけ大人っぽい。
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夏音は一瞬見とれた。
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「お、おはようございます!」
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慌てて頭を下げる。
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恒一は笑った。
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「緊張してる?」
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「してます」
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即答だった。
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「私、東京初めてです」
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「俺も久しぶりだな」
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そう言って二人は駅へ向かう。
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そして。
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新幹線。
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窓際の席。
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夏音はずっと外を見ていた。
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「速い……」
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「新幹線だからな」
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「すごい……」
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「田舎者丸出しだぞ」
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「先生も同じです」
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「否定できない」
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二人は笑った。
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数時間後。
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東京駅。
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降りた瞬間。
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人。
人。
人。
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そして高いビル。
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「なにここ……」
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夏音が呆然と立ち尽くす。
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「日本だぞ」
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「信じられません」
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「俺もちょっと信じてない」
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再び笑う。
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緊張が少しほぐれた。
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だが。
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出版社のビルが見えた瞬間。
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二人の表情が変わる。
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巨大だった。
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「ここ……?」
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「らしい」
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二十階を超える高層ビル。
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入り口だけで圧倒される。
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受付。
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エレベーター。
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会議室。
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全てが別世界だった。
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そして。
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ドアが開く。
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「お待ちしていました」
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中には黒川がいた。
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「よく来ましたね」
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いつも通り落ち着いた表情。
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その姿を見て。
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二人は少し安心した。
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「黒川さん!」
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「まずは座ってください」
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会議室には他にも数人。
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編集者たち。
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そして。
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一人の女性が立ち上がった。
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長い黒髪。
知的な雰囲気。
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年齢は二十代後半くらい。
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「初めまして」
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優しく微笑む。
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「私、白石玲奈です」
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「新人作家発掘チームの責任者をしています」
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夏音と恒一は頭を下げた。
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玲奈は言った。
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「お二人の作品」
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「読ませていただきました」
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「本当に素敵でした」
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その言葉だけで。
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夏音の目が潤む。
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恒一も胸が熱くなる。
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誰かに認められる。
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それがどれほど嬉しいことか。
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二人は知っていた。
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しかし。
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ここから。
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さらに驚く話が始まる。
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黒川が資料を机に置く。
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「実は」
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「もう一つサプライズがあります」
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恒一が眉を上げた。
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「まだあるんですか?」
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黒川は珍しく少し笑った。
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そして。
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一枚の紙を差し出した。
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そこに書かれていた言葉。
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### 『君が見つけてくれた僕の言葉』
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夏音の次回作タイトル。
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そして。
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その下には。
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### 映像化企画検討中
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の文字があった。
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「……え?」
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夏音が固まる。
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恒一も固まる。
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会議室が静まり返る。
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そして次の瞬間。
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「えええええええええええっ!?」
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二人の声が東京中に響きそうなほど大きかった――。
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### 次回
# エピソード98
## 「映像化の話」
夏音の小説が映像化候補に!?
戸惑う夏音。
喜ぶ恒一。
そして白石玲奈が語る厳しい現実。
夢の世界は、甘いだけではなかった――。




