# エピソード94 ## 「夏音の誕生日」
# エピソード94
## 「夏音の誕生日」
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七月。
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夏が近付いていた。
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そして。
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夏音の誕生日も近付いていた。
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恒一は重大な問題に直面していた。
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職員室。
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昼休み。
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恒一は机に突っ伏していた。
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白石
「死んでるな」
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恒一
「終わった」
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白石
「何が」
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恒一
「誕生日」
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白石は一瞬黙る。
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そして。
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爆笑した。
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恒一
「笑うな」
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白石
「いや無理だろ」
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恒一
「プレゼント分からん」
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白石
「恋人歴何ヶ月だ」
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恒一
「知らん」
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白石
「終わってる」
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恒一は本気で悩んでいた。
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夏音は物欲が少ない。
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ブランド物にも興味がない。
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アクセサリーもあまり着けない。
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本は自分で買う。
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詩集も持っている。
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つまり。
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難易度が高すぎる。
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その日の夜。
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恒一は一人で考えていた。
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机の上にはメモ帳。
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・花?
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違う。
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・アクセサリー?
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違う気がする。
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・高級ディナー?
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夏音は喜ぶ。
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でも。
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それだけじゃない。
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恒一
「うーん……」
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その時だった。
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スマホが鳴る。
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黒川。
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恒一
「なんで」
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黒川
「相談があります」
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恒一
「嫌な予感しかしない」
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数分後。
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電話。
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黒川
「誕生日ですね」
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恒一
「なんで知ってる」
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黒川
「担当編集です」
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万能だった。
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黒川
「プレゼント悩んでますね」
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恒一
「なんで分かる」
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黒川
「顔が浮かびます」
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怖かった。
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そして。
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黒川は少しだけ笑った。
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黒川
「夏音先生が一番欲しいもの」
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恒一
「何ですか」
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黒川
「たぶん」
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少し間。
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黒川
「物じゃないですよ」
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電話が切れる。
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恒一
「……」
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物じゃない。
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その言葉だけが残った。
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誕生日当日。
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朝。
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夏音は普通に起きた。
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普通に原稿を書いた。
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普通に過ごした。
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恒一からも特に連絡はない。
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夏音
「忘れてますね」
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少しだけ寂しい。
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でも。
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教師は忙しい。
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知っている。
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夕方。
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スマホが鳴る。
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恒一
「駅前来れるか?」
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夏音
「?」
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恒一
「来てくれ」
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短い文章。
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夏音は急いで家を出た。
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駅前。
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夕暮れ。
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人通りが多い。
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そこに。
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恒一はいなかった。
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夏音
「……?」
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その時。
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メッセージ。
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恒一
「後ろ」
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振り返る。
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恒一がいた。
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少し照れ臭そうに。
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そして。
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一冊の本を差し出した。
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夏音
「これ……」
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本だった。
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でも。
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市販の本じゃない。
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表紙には。
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# 『夏音へ』
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夏音の目が大きくなる。
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ページを開く。
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そこには。
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これまでの思い出。
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旅行の日。
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イベントの日。
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ケンカした日。
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仲直りした日。
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そして。
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恒一の言葉。
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一ページ一ページ。
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丁寧に綴られていた。
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最後のページ。
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そこには。
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『君が言葉を信じ続けたから』
『僕も言葉を信じられるようになった』
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『誕生日おめでとう』
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『これからも一番最初の読者でいさせてください』
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夏音は何も言えなかった。
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目が潤む。
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涙が落ちる。
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恒一
「その」
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恒一
「プレゼント」
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恒一
「これしか思いつかなかった」
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夏音は首を横に振る。
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そして。
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本を抱きしめた。
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夏音
「先生」
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声が震える。
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夏音
「ずるいです」
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恒一
「またか」
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夏音
「こんなの」
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涙を拭く。
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夏音
「一番嬉しいに決まってるじゃないですか」
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夕陽が沈む。
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夏音は本を胸に抱いたまま。
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恒一の肩にそっと寄り添った。
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今年の誕生日。
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きっと一生忘れない。
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