# エピソード93 ## 「夏音、嫉妬する」
# エピソード93
## 「夏音、嫉妬する」
---
放課後。
---
夕陽が校舎を赤く染めていた。
---
夏音は職員室の前の廊下で待っていた。
---
恒一はまだ仕事中。
---
「少し待っててくれ」
---
そう言われたので待っている。
---
別に嫌じゃない。
---
むしろ。
---
教師として働く恒一を見るのは好きだった。
---
---
職員室の窓から中が見える。
---
恒一は何か書類を書いている。
---
真剣な顔。
---
いつもより大人っぽく見える。
---
---
その時だった。
---
女子生徒が三人。
---
職員室へ入っていく。
---
---
夏音
「?」
---
---
しばらくして。
---
楽しそうな笑い声。
---
---
女子生徒A
「朝倉先生ー!」
---
---
女子生徒B
「聞いてくださいよー!」
---
---
女子生徒C
「先生しか頼れないんです!」
---
---
恒一
「順番に話せ」
---
---
女子生徒たちが笑う。
---
---
夏音
「……」
---
---
なんだろう。
---
この気持ち。
---
---
胸の奥が。
---
少しだけ。
---
もやもやする。
---
---
女子生徒A
「先生優しいー!」
---
---
女子生徒B
「好きー!」
---
---
恒一
「はいはい」
---
---
女子生徒C
「適当!」
---
---
また笑い声。
---
---
夏音
「……」
---
---
面白くない。
---
---
全然面白くない。
---
---
自分でも理由は分かっている。
---
---
嫉妬だった。
---
---
人生で初めてかもしれない。
---
こんな感情。
---
---
しばらくして。
---
生徒たちは帰っていく。
---
---
恒一も職員室から出てきた。
---
---
「待たせたな」
---
---
夏音
「別に」
---
---
恒一
「?」
---
---
なんとなく。
---
空気がおかしい。
---
---
帰り道。
---
二人で歩く。
---
---
いつもなら話す。
---
でも今日は静かだった。
---
---
恒一
「どうした?」
---
---
夏音
「何がですか」
---
---
恒一
「機嫌悪いだろ」
---
---
夏音
「悪くありません」
---
---
前にも聞いた。
---
危険な言葉だった。
---
---
恒一
「怒ってる」
---
---
夏音
「怒ってません」
---
---
怒っていた。
---
---
恒一はため息をつく。
---
---
恒一
「理由は?」
---
---
夏音
「……」
---
---
言いたくない。
---
---
子供みたいだから。
---
---
でも。
---
言わないと伝わらない。
---
---
夏音
「女子生徒」
---
---
恒一
「ん?」
---
---
夏音
「仲良かったですね」
---
---
数秒。
---
---
恒一
「……ああ」
---
---
そこで気付く。
---
---
恒一
「もしかして」
---
---
夏音
「違います」
---
---
恒一
「嫉妬?」
---
---
夏音
「違います」
---
---
恒一
「嫉妬だな」
---
---
夏音
「違います」
---
---
耳が真っ赤だった。
---
---
恒一は思わず笑ってしまう。
---
---
夏音
「笑わないでください」
---
---
恒一
「悪い」
---
---
夏音
「全然悪いと思ってません」
---
---
その通りだった。
---
---
恒一は少し考える。
---
そして。
---
立ち止まった。
---
---
夏音
「?」
---
---
恒一
「夏音」
---
---
真面目な声。
---
---
夏音も足を止める。
---
---
恒一
「俺は教師だから」
---
---
恒一
「生徒と話す」
---
---
恒一
「相談も受ける」
---
---
夏音
「……はい」
---
---
恒一
「でも」
---
---
夕陽が差し込む。
---
---
恒一
「特別なのは一人だ」
---
---
夏音の心臓が跳ねた。
---
---
恒一
「分かるだろ」
---
---
優しい声だった。
---
---
夏音は下を向く。
---
---
顔が熱い。
---
---
夏音
「……ずるいです」
---
---
恒一
「またそれか」
---
---
夏音
「先生はずるいです」
---
---
恒一
「そうか」
---
---
少し笑う。
---
---
そして。
---
二人はまた歩き始める。
---
---
夕暮れの道。
---
---
並ぶ影。
---
---
夏音は少しだけ恒一の袖をつまんだ。
---
---
ほんの少し。
---
誰にも分からないくらい。
---
---
でも。
---
恒一は気付いた。
---
---
何も言わず。
---
少しだけ歩幅を合わせる。
---
---
その優しさが。
---
やっぱり好きだった。
---
### 次回
# エピソード94
## 「夏音の誕生日」
恒一、人生最大のミッション。
夏音に内緒で誕生日サプライズを計画する――。
これはかなり甘い回になります。




