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# エピソード92 ## 「放課後のサイン会」

# エピソード92


## 「放課後のサイン会」


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授業終了のチャイムが鳴った。


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キーンコーンカーンコーン。


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夏音はほっと息を吐く。


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終わった。


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無事に終わった。


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緊張で足が少し震えている。


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「お疲れ」


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恒一が近付いてくる。


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「ありがとうございます」


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夏音は小さく頭を下げた。


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本当に安心した。


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思ったより話せた。


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思ったより生徒たちが聞いてくれた。


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そして何より。


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恒一が見ていてくれた。


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その時だった。


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「夏音先生!」


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元気な声。


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大地だった。


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「はい?」


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「サインください!」


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夏音


「え?」


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一瞬。


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教室が静かになる。


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そして。


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次の瞬間。


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「俺も!」


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「私も欲しい!」


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「並べ!」


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「押すな!」


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大混乱。


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恒一


「お前ら落ち着け!」


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誰も聞いていない。


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夏音は目をぱちぱちさせた。


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イベント会場なら分かる。


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本屋も分かる。


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でも。


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学校でサイン会。


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想像したこともなかった。


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気付けば机の前に行列。


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夏音


「本当にいいんですか?」


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美咲


「当たり前です」


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大地


「自慢できます!」


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夏音


「自慢?」


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大地


「作家さん知り合いとか強いです!」


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夏音は思わず笑う。


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そして。


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一人一人の本に名前を書く。


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『頑張ってください』


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『素敵な言葉に出会えますように』


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短いメッセージ。


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でも。


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生徒たちは嬉しそうだった。


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その時。


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美咲が本を抱えて前に出る。


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美咲


「先生」


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夏音


「はい」


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美咲


「質問です」


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嫌な予感。


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なぜか恒一も感じた。


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美咲


「朝倉先生のどこが好きなんですか?」


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教室。


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静止。


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恒一


「おい」


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大地


「聞きたい!」


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「気になる!」


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「確かに!」


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完全に興味津々。


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夏音


「えっ」


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顔が赤くなる。


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恒一


「答えなくていいからな!」


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美咲


「先生は黙っててください」


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恒一


「なんでだよ」


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生徒たちは夏音を見る。


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期待の視線。


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逃げ場なし。


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夏音


「その……」


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耳まで赤い。


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夏音


「優しいところです」


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「おおー!」


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教室が盛り上がる。


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恒一


「やめろ」


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夏音


「あと」


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まだある。


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恒一


「やめろって」


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夏音


「頑張ってるところとか」


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「おおおー!」


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大地が机を叩く。


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夏音


「それと」


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恒一


「もう十分だろ」


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夏音


「言葉を大切にしてるところです」


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静かになる。


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その言葉だけは。


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ふざけていなかった。


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夏音


「だから好きになりました」


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優しい声だった。


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恒一は何も言えない。


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ただ。


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人生最大級に顔が赤かった。


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美咲


「先生」


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恒一


「なんだ」


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美咲


「ニヤニヤしてます」


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恒一


「してない」


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美咲


「してます」


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していた。


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教室は笑い声に包まれる。


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窓の外では夕陽が差し込んでいた。


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夏音は思う。


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この場所は。


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恒一が毎日立っている場所。


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この子たちは。


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恒一が毎日向き合っている生徒たち。


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そして。


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そんな恒一を。


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もっと好きになっている自分がいた。


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### 次回


# エピソード93


## 「夏音、嫉妬する」


放課後。


女子生徒たちに囲まれる恒一。


その光景を見た夏音は――


初めて本気で嫉妬してしまう。


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