# エピソード91 ## 「夏音、教師になる」②
# エピソード91
## 「夏音、教師になる」②
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教室が爆発した。
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「えっ!?」
「誰!?」
「先生の彼女!?」
「マジかよ!!」
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一瞬で大騒ぎになる。
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恒一は頭を押さえた。
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「お前ら落ち着け」
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誰も落ち着かない。
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大地は机を叩いて立ち上がる。
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「先生!!」
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「なんだ」
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「本当に彼女いるんですか!?」
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「いる」
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教室がさらに騒がしくなった。
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「認めた!!」
「認めたぞ!!」
「事件だ!!」
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夏音は完全に固まっていた。
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(帰りたい……)
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人生で何度目かの感情だった。
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その時。
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前の席から美咲が立ち上がる。
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「先生」
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「なんだ」
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「朝倉先生って彼女いたんですね」
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「いたら悪いか」
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「いえ」
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美咲は真面目な顔で言った。
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「一生独身かと思ってました」
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教室爆笑。
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「おい」
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恒一のツッコミも笑いに消える。
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その様子を見て。
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夏音は少しだけ笑った。
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やっぱり。
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恒一は学校で人気者だった。
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厳しすぎず。
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優しすぎず。
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生徒とちゃんと向き合う。
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そんな教師。
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「みんな静かに」
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恒一の声が響く。
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すると。
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不思議なくらい教室が静かになった。
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夏音は少し驚く。
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さっきまで大騒ぎだったのに。
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「今日は特別授業だ」
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恒一は黒板に名前を書く。
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チョークの音。
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白い文字。
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## 夏音先生
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教室がざわつく。
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「作家さんだ」
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恒一がそう紹介した瞬間。
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空気が変わった。
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「え?」
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「作家?」
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「本出してるの?」
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夏音は少し緊張しながら前に立つ。
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たくさんの視線。
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イベント会場とは違う。
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読者じゃない。
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中学生。
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だからこそ緊張する。
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「はじめまして」
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声が少し震えた。
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「夏音です」
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静かだった。
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「今日は」
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少し息を吸う。
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「言葉について話しに来ました」
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教室は静かに聞いている。
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その時。
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夏音はふと後ろを見る。
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教室の後ろ。
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恒一がいた。
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腕を組みながら。
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少しだけ笑っている。
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大丈夫。
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その顔を見て思った。
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私は一人じゃない。
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そして。
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夏音は話し始めた。
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好きな本の話。
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子供の頃の話。
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言葉が嫌いだった時期の話。
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言葉に救われた日の話。
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気付けば。
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生徒たちは真剣に聞いていた。
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大地ですら寝ていない。
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これは奇跡だった。
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授業の終わり。
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夏音は最後に言った。
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「みんなは」
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少し教室を見渡す。
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「自分の言葉を大事にしてください」
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「上手じゃなくてもいいんです」
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「伝えようとすることが大切だから」
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静かな教室。
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誰もふざけない。
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その空気に。
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夏音自身が驚いていた。
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そして。
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授業終了のチャイムが鳴る。
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キーンコーンカーンコーン。
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拍手が起こった。
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一人。
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また一人。
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やがて教室全体が拍手に包まれる。
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夏音の目が少し潤む。
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その瞬間。
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後ろから声が聞こえた。
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恒一。
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「よく頑張ったな」
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小さな声。
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でも。
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誰よりも嬉しい言葉だった。
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夏音は少し笑う。
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「先生」
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「ん?」
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「ずるいです」
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恒一は苦笑した。
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教室の窓からは。
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初夏の青空が見えていた。
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そして。
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この日から。
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夏音は生徒たちにとっても、
少し特別な人になるのだった。
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### 次回
# エピソード92
## 「放課後のサイン会」
授業終了後。
生徒たちが夏音を囲む。
そして美咲が放った一言で、
恒一は人生最大級の赤面をする――。




