表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
81/101

## 「夏音、教師になる」





## 「夏音、教師になる」


六月の終わり。


雨上がりの空は驚くほど青かった。


窓から差し込む光が、教室の机を白く照らしている。


夏音は校門の前で立ち止まった。


「……」


大きく深呼吸する。


中学校。


教師。


生徒。


どれも自分とは遠い世界だと思っていた。


なのに今日。


彼女はその世界の中に立っている。


「緊張してるのか?」


後ろから聞き慣れた声がした。


振り返ると、恒一がいた。


教師らしいシャツ姿。


首から名札を下げている。


夏音は少しだけ笑う。


「しています」


「そうか」


「帰りたいです」


「まだ始まってないぞ」


「今なら間に合います」


「間に合わない」


即答だった。


夏音は小さく頬を膨らませる。


その様子を見て恒一が笑う。


その笑顔を見ると、不思議と少し安心できた。


「大丈夫だ」


恒一はそう言った。


いつもと同じ声で。


特別なことは何も言わない。


派手な励ましもない。


でも。


その一言には不思議な力があった。


「先生」


「ん?」


「もし失敗したらどうします?」


恒一は少し考える。


そして肩をすくめた。


「まあ、なんとかなるだろ」


夏音は思わず吹き出した。


「本当にそれ好きですね」


「便利だからな」


「適当です」


「否定できない」


二人は並んで校舎へ向かう。


廊下には生徒たちの声が響いていた。


笑い声。


足音。


誰かを呼ぶ声。


その全部が眩しく感じる。


夏音はふと恒一を見た。


教師として歩く姿。


生徒たちに慕われる姿。


自分の知らない恒一がそこにいた。


そして思う。


――先生、ちゃんと先生なんだな。


そんな当たり前のことに、少しだけ胸が温かくなった。


その時だった。


教室のドアが開く。


「朝倉先生ー!」


元気な声。


そして次の瞬間。


生徒たちの視線が、一斉に夏音へ向いた。


静寂。


数秒後。


教室が爆発した。


「えっ!?」


「誰!?」


「めっちゃ綺麗な人いる!」


「先生の彼女!?」


「マジで!?」


恒一は頭を抱えた。


夏音は固まった。


そして教室だけが異常な盛り上がりを見せていた――。


---



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ