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# エピソード88 ## 「編集者、二人目の作家を発見する」

# エピソード88


## 「編集者、二人目の作家を発見する」


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六月。


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梅雨。


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雨。


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雨。


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そして雨。


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恒一は職員室の窓を見ながら思う。


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恒一


「洗濯物終わったな」


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その日の夜。


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夏音から連絡が来た。


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夏音


「先生」


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恒一


「ん?」


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夏音


「黒川さんが会いたいそうです」


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嫌な予感。


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恒一


「なんで」


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夏音


「原稿の件です」


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恒一


「嫌だ」


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夏音


「逃げます?」


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恒一


「逃げる」


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夏音


「無理です」


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恒一


「なんで」


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夏音


「送っちゃいました」


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恒一


「何を?」


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夏音


「原稿」


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沈黙。


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恒一


「お前さぁ!!」


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既読。


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夏音


「ごめんなさい」


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全然反省していない。


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数日後。


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出版社。


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会議室。


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恒一。


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夏音。


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黒川。


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逃げられなかった。


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黒川は机の上に原稿を置く。


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タイトル。


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# 「言葉を好きになる授業」


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恒一


「返してください」


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黒川


「嫌です」


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恒一


「なんで」


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黒川


「面白いので」


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恒一


「え」


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黒川


「面白いです」


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恒一は固まる。


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褒められる想定をしていなかった。


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黒川


「文章は荒い」


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恒一


「はい」


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黒川


「構成も甘い」


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恒一


「はい」


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黒川


「でも」


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ページをめくる。


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黒川


「子どもが好きなんですね」


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静かになる。


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黒川


「それが伝わる」


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黒川


「だから読める」


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恒一は言葉を失う。


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教師になってから。


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授業のこと。


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生徒のこと。


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言葉のこと。


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たくさん考えてきた。


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でも。


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誰かに評価されるなんて思わなかった。


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黒川


「朝倉先生」


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恒一


「はい」


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黒川


「逃がしません」


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恒一


「怖い」


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夏音


「私も同じこと言われました」


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黒川


「作家は全員そう言います」


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黒川は微笑む。


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編集者の笑顔だった。


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黒川


「出版を目指しましょう」


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恒一


「いや」


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黒川


「目指しましょう」


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恒一


「いや」


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黒川


「目指しましょう」


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夏音


「無理です先生」


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恒一


「味方いねえ」


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二対一だった。


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帰り道。


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雨。


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傘。


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二人並んで歩く。


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恒一


「勝手に送るなよ」


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夏音


「ごめんなさい」


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恒一


「本当に思ってるか?」


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夏音


「少し」


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恒一


「少しかよ」


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夏音が笑う。


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しばらく歩く。


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そして。


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夏音が小さく言った。


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夏音


「嬉しかったです」


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恒一


「何が」


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夏音


「先生にも夢があったこと」


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雨音。


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夏音


「私だけじゃなかった」


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少し照れながら笑う。


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夏音


「なんか安心しました」


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恒一は少し黙る。


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そして。


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小さく笑う。


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恒一


「まあ、なんとかなるだろ」


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夏音


「出ました」


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恒一


「口癖だからな」


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夏音


「好きです」


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恒一


「うるせえ」


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雨の中。


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二人は笑う。


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作家と教師。


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夢を追う二人。


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まだ何者でもない。


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でも。


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隣にいる人だけは信じられる。


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そんな六月が始まろうとしていた。


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### 次回


# エピソード89


## 「初めてのケンカ」


順調だった二人。


しかし――


夏音のある一言がきっかけで、

初めて本気のすれ違いが起きる。


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