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77/101

# エピソード87 ## 「先生の夢」

# エピソード87


## 「先生の夢」


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五月の終わり。


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公開イベントから数日。


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夏音は少し変わっていた。


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以前より笑う。


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以前より自信がある。


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そして。


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以前より原稿が進む。


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黒川


「奇跡ですね」


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夏音


「失礼です」


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黒川


「締切前に原稿がある」


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黒川


「奇跡です」


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その日の夜。


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夏音は恒一と通話していた。


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夏音


「先生」


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恒一


「ん?」


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夏音


「最近、楽しそうです」


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恒一


「そうか?」


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夏音


「そうです」


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少し考える。


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確かに。


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教師二年目は忙しい。


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でも。


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以前より余裕があった。


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夏音


「何かありました?」


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恒一


「別に」


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夏音


「嘘です」


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恒一


「なんで分かる」


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夏音


「好きなので」


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恒一


「便利な言葉だな」


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夏音


「便利です」


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少し笑う。


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そして。


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夏音は気付く。


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恒一が何かを隠している。


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数日後。


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休日。


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二人は本屋へ来ていた。


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夏音は小説コーナー。


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恒一は教育書コーナー。


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そして。


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一冊の本を手に取る。


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『子どもたちに伝わる授業づくり』


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『教師のための文章講座』


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『学級通信の作り方』


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夏音


「……」


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怪しい。


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かなり怪しい。


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帰り道。


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カフェ。


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夏音


「先生」


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恒一


「ん?」


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夏音


「何か企んでます?」


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恒一


「人聞き悪いな」


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夏音


「じゃあ隠し事です」


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恒一


「……」


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図星だった。


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夏音


「ありますね」


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恒一


「ある」


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夏音


「教えてください」


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恒一


「まだ早い」


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夏音


「気になります」


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恒一


「完成したらな」


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完成。


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その言葉に引っかかる。


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完成?


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何を?


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その答えが分かったのは。


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一週間後だった。


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夜。


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恒一の部屋。


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机の上。


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ノートパソコン。


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大量のメモ。


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夏音が偶然見つける。


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タイトル。


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# 「言葉を好きになる授業」


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夏音


「先生……」


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恒一


「うわ」


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見られた。


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完全に見られた。


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夏音はページを読む。


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授業の工夫。


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生徒とのエピソード。


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言葉の面白さ。


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教師として感じたこと。


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全部書いてある。


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夏音


「これ」


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恒一


「……本」


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夏音


「本?」


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恒一


「いつか出せたらなって」


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照れくさそうに頭をかく。


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恒一


「教師向けじゃなくて」


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恒一


「子ども向けに」


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恒一


「言葉が好きになる本」


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静かになる。


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夏音はしばらく何も言えなかった。


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だって。


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それは。


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とても恒一らしい夢だった。


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有名になりたいわけじゃない。


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売れたいわけじゃない。


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ただ。


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誰かに届けたい。


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その気持ちだけ。


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夏音


「先生」


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恒一


「ん?」


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夏音


「絶対出しましょう」


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即答。


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恒一


「いや」


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恒一


「まだ全然だぞ」


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夏音


「出しましょう」


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恒一


「聞け」


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夏音


「出しましょう」


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恒一


「圧がすごい」


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夏音は笑う。


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そして。


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少しだけ目を潤ませながら言う。


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夏音


「だって」


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夏音


「先生の言葉に救われた人」


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夏音


「私が知ってますから」


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恒一は黙る。


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言葉が出ない。


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でも。


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少しだけ嬉しかった。


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夏音


「だから」


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夏音


「次は先生の番です」


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その言葉は。


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どんな応援よりも。


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どんな賞賛よりも。


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心に残った。


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### 次回


# エピソード88


## 「編集者、二人目の作家を発見する」


黒川真琴。


ついに恒一の原稿を読む。


そして放った第一声は――


「朝倉先生、逃がしません」だった。


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