# エピソード85 ## 「売れっ子作家と新人教師」
# エピソード85
## 「売れっ子作家と新人教師」
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五月。
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春の風が心地いい季節。
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学校の窓から見える木々も、すっかり緑になっていた。
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恒一は教室で朝のホームルームをしている。
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恒一
「席つけー」
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大地
「先生ー!」
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恒一
「なんだ」
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大地
「彼女いますか!」
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教室爆笑。
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恒一
「朝から何聞いてんだ!」
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美咲
「動揺してる」
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恒一
「してない」
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美咲
「してます」
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鋭かった。
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放課後。
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恒一は職員室でぐったりしていた。
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教師という仕事は。
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思った以上に体力を使う。
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スマホが震える。
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夏音。
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夏音
「助けてください」
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恒一
「またか」
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夏音
「今回は本当に助けてください」
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恒一
「何した」
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夏音
「何もしてません」
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恒一
「信用できない」
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数秒後。
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スクリーンショットが送られてくる。
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送信者。
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黒川真琴。
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内容。
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> 『次回作のために公開イベントやりましょう』
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恒一
「公開イベント?」
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夏音
「無理です」
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恒一
「なんで」
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夏音
「人前です」
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確かに。
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夏音は人前が苦手だ。
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詩を書くのは好き。
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でも。
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目立つのは苦手。
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夏音
「黒川さん壊れました」
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恒一
「失礼だろ」
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その頃。
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出版社。
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黒川真琴。
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くしゃみ。
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黒川
「誰か悪口言いましたね」
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編集部
「たぶん夏音先生です」
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黒川
「でしょうね」
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そして数日後。
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打ち合わせ。
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黒川
「公開イベントやります」
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夏音
「嫌です」
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黒川
「やります」
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夏音
「嫌です」
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黒川
「やります」
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完全に平行線。
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黒川はため息をつく。
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黒川
「夏音先生」
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夏音
「はい」
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黒川
「なぜ本を書くんですか」
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突然だった。
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夏音
「え」
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黒川
「なぜです?」
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少し考える。
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夏音
「誰かに届いてほしいからです」
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黒川
「ですよね」
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黒川は微笑む。
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黒川
「じゃあ会いましょう」
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夏音
「……」
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黒川
「あなたの言葉に救われた人たちに」
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静かになる。
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その言葉は。
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少しだけ心に刺さった。
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夜。
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恒一との通話。
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夏音
「先生」
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恒一
「ん?」
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夏音
「怖いです」
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正直な声だった。
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恒一
「だろうな」
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夏音
「失敗したらどうしましょう」
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恒一は少し考える。
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そして。
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笑う。
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恒一
「まあ、なんとかなるだろ」
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夏音
「出た」
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恒一
「口癖だからな」
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夏音
「適当です」
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恒一
「でも今まで」
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少し間。
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恒一
「お前、全部乗り越えてきただろ」
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夏音は黙る。
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本を出した。
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読者ができた。
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感想が届いた。
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旅行にも行った。
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昔の自分なら。
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信じられない未来だった。
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夏音
「……そうですね」
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恒一
「だから大丈夫」
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夏音
「先生」
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恒一
「ん?」
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夏音
「ずるいです」
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恒一は笑う。
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その言葉を聞くたびに。
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少しだけ幸せになる。
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そして。
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第二作。
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夏音の新しい物語が。
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ゆっくりと動き始めていた。
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### 次回
# エピソード86
## 「言葉に救われました」
公開イベント当日。
夏音は初めて、自分の読者と出会う。
そして――
読者の一言に、涙をこらえられなくなる。




