# 第三部・春編 ## エピソード82 ### 「締切は愛より強いです」
# 第三部・春編
## エピソード82
### 「締切は愛より強いです」
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三月下旬。
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旅行から帰って数日。
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恒一は職員室で新年度の準備に追われていた。
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大量の書類。
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恒一
「終わる気しねえ……」
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スマホが震える。
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夏音
「助けてください」
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恒一
「どうした」
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夏音
「人生最大の危機です」
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恒一
「重いな」
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夏音
「編集者が怖いです」
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恒一
「何した」
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夏音
「締切を三週間過ぎました」
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恒一
「お前が悪い」
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既読。
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夏音
「先生まで敵です」
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翌日。
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夏音は出版社に呼ばれていた。
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会議室。
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静か。
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目の前には一人の女性。
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黒川真琴。
28歳。
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黒髪。
眼鏡。
仕事ができる顔。
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そして。
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笑顔。
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その笑顔が怖い。
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黒川
「夏音先生」
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夏音
「はい」
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黒川
「締切は」
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黒川
「愛より強いです」
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夏音
「申し訳ありません」
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即謝罪。
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黒川
「旅行でしたか」
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夏音
「……はい」
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黒川
「恋人ですか」
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夏音
「はい」
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黒川
「なるほど」
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メモする。
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夏音
「何を書いてるんですか」
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黒川
「敵の情報です」
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夏音
「敵じゃないです」
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数時間後。
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打ち合わせ終了。
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夏音はぐったりしていた。
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スマホを取り出す。
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夏音
「生きてますか」
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恒一
「それこっちの台詞」
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夏音
「編集者に怒られました」
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恒一
「当たり前だ」
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夏音
「慰めてください」
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恒一
「原稿やれ」
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既読。
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すぐ返信。
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夏音
「先生」
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恒一
「ん?」
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夏音
「冷たいです」
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恒一
「締切守れ」
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そのやり取りを見ながら。
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夏音は少し笑った。
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疲れていた。
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打ち合わせも大変だった。
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でも。
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こうして連絡する相手がいる。
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それだけで少し元気になる。
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夜。
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原稿を書いていると。
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スマホが震える。
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恒一
「頑張れ作家」
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一文だけ。
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短い。
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でも。
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夏音は思わず笑った。
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夏音
「はい」
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そして。
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もう一度キーボードに向かう。
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言葉を書く。
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未来を書く。
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その先にはきっと。
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読者もいる。
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でも。
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まず最初に読んでほしい人がいる。
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教師の恋人。
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自分の一番最初の読者。
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朝倉恒一だった。
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### 次回
## エピソード83
### 「編集者、恋人を尋問する」
黒川、ついに恒一と遭遇。
夏音が真っ青になる事件が発生する。




