# エピソード81 ## 「好きになってよかった」
# エピソード81
## 「好きになってよかった」
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翌朝。
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恒一が目を覚ますと。
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窓の外は真っ白だった。
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夜の間に雪が積もったらしい。
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冬の朝特有の静けさ。
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旅館の部屋には柔らかな光が差し込んでいる。
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そして。
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窓際には夏音がいた。
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本を読んでいる。
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朝日を浴びながら。
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静かにページをめくっている。
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その姿を見て。
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恒一は思う。
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(綺麗だな)
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顔とか。
髪とか。
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そういうことじゃなくて。
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生き方が。
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言葉を大切にする姿が。
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綺麗だった。
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夏音:
「おはようございます」
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恒一:
「おはよう」
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夏音:
「寝癖ついてます」
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恒一:
「朝からひどいな」
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夏音が笑う。
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その笑顔を見て。
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恒一も笑ってしまう。
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## 朝食
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旅館の食堂。
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焼き魚。
味噌汁。
温泉卵。
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恒一:
「旅館の朝飯ってなんでこんな美味いんだ」
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夏音:
「先生、昨日も同じこと言ってました」
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恒一:
「言ったっけ」
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夏音:
「言いました」
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何気ない会話。
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でも幸せだった。
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## 帰る前
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チェックアウトまで少し時間がある。
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二人は旅館の裏にある小さな丘へ向かった。
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雪景色。
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遠くに山が見える。
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空は青い。
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風は冷たい。
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でも気持ちよかった。
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夏音:
「先生」
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恒一:
「ん?」
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少しだけ真面目な声。
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夏音:
「お願いがあるんです」
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恒一は顔を向ける。
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夏音:
「笑わないでください」
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恒一:
「内容による」
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夏音:
「ひどいです」
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少し笑う。
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でも。
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夏音はすぐ真面目な顔に戻った。
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夏音:
「私」
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雪の景色を見る。
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夏音:
「もっと本を書きたいです」
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恒一:
「うん」
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夏音:
「もっと読んでもらいたい」
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恒一:
「うん」
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夏音:
「だから」
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一度深呼吸する。
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夏音:
「これからも、一番最初の読者でいてください」
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風が吹く。
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白い雪が舞う。
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恒一は少しだけ驚く。
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もっと大きな願いかと思った。
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もっと難しい願いかと思った。
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でも。
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それは。
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夏音らしい願いだった。
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恒一:
「それだけか?」
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夏音:
「それだけじゃないです」
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恒一:
「ん?」
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夏音は少し照れる。
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夏音:
「恋人も続けてください」
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一瞬。
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二人とも吹き出した。
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恒一:
「そっちが本題だろ」
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夏音:
「ばれました」
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笑い声が雪景色に響く。
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しばらくして。
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恒一は静かに言った。
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恒一:
「続けるよ」
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夏音:
「本当ですか」
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恒一:
「作家の一番最初の読者も」
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恒一:
「恋人も」
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少し間。
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恒一:
「その先も」
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夏音の目が大きくなる。
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言葉の意味は。
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ちゃんと伝わったらしい。
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夏音:
「……ずるいです」
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目が少し潤んでいた。
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夏音:
「旅行の最後にそういうこと言うので」
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恒一:
「本当のことだからな」
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雪が光る。
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冬の空が広がる。
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この旅行で。
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二人は特別なことをしたわけじゃない。
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世界を変えたわけでもない。
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ただ。
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一緒に歩いて。
一緒に笑って。
一緒に未来の話をした。
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それだけ。
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でも。
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それだけで十分だった。
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帰りの電車の中。
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夏音は恒一の肩にもたれながら眠っていた。
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窓の外には流れる雪景色。
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恒一はそっと微笑む。
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教師になった。
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夢を叶えた。
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そして。
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好きな人と旅をした。
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人生はまだ途中だ。
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きっとこれからも悩む。
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迷う。
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立ち止まる。
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でも。
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隣にこの人がいるなら。
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その未来も悪くない。
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## 第二部・冬編 完
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### 次章
## 第三部・春編
### 「桜が咲くころ、僕たちは」
新学期。
教師二年目の恒一。
そして第二作の執筆が始まる夏音。
二人の関係は、さらに大きな一歩を迎える――。




