表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/84

# エピソード81 ## 「好きになってよかった」

# エピソード81


## 「好きになってよかった」


---


 翌朝。


---


 恒一が目を覚ますと。


---


 窓の外は真っ白だった。


---


 夜の間に雪が積もったらしい。


---


 冬の朝特有の静けさ。


---


 旅館の部屋には柔らかな光が差し込んでいる。


---


 そして。


---


 窓際には夏音がいた。


---


 本を読んでいる。


---


 朝日を浴びながら。


---


 静かにページをめくっている。


---


---


 その姿を見て。


---


 恒一は思う。


---


(綺麗だな)


---


 顔とか。


 髪とか。


---


 そういうことじゃなくて。


---


 生き方が。


---


 言葉を大切にする姿が。


---


 綺麗だった。


---


---


夏音:

「おはようございます」


---


恒一:

「おはよう」


---


夏音:

「寝癖ついてます」


---


恒一:

「朝からひどいな」


---


 夏音が笑う。


---


 その笑顔を見て。


---


 恒一も笑ってしまう。


---


---


## 朝食


---


 旅館の食堂。


---


 焼き魚。


 味噌汁。


 温泉卵。


---


恒一:

「旅館の朝飯ってなんでこんな美味いんだ」


---


夏音:

「先生、昨日も同じこと言ってました」


---


恒一:

「言ったっけ」


---


夏音:

「言いました」


---


 何気ない会話。


---


 でも幸せだった。


---


---


## 帰る前


---


 チェックアウトまで少し時間がある。


---


 二人は旅館の裏にある小さな丘へ向かった。


---


 雪景色。


---


 遠くに山が見える。


---


 空は青い。


---


 風は冷たい。


---


 でも気持ちよかった。


---


---


夏音:

「先生」


---


恒一:

「ん?」


---


---


 少しだけ真面目な声。


---


---


夏音:

「お願いがあるんです」


---


---


 恒一は顔を向ける。


---


---


夏音:

「笑わないでください」


---


恒一:

「内容による」


---


夏音:

「ひどいです」


---


---


 少し笑う。


---


 でも。


---


 夏音はすぐ真面目な顔に戻った。


---


---


夏音:

「私」


---


---


 雪の景色を見る。


---


---


夏音:

「もっと本を書きたいです」


---


恒一:

「うん」


---


夏音:

「もっと読んでもらいたい」


---


恒一:

「うん」


---


---


夏音:

「だから」


---


---


 一度深呼吸する。


---


---


夏音:

「これからも、一番最初の読者でいてください」


---


---


 風が吹く。


---


 白い雪が舞う。


---


---


 恒一は少しだけ驚く。


---


---


 もっと大きな願いかと思った。


---


 もっと難しい願いかと思った。


---


---


 でも。


---


 それは。


---


 夏音らしい願いだった。


---


---


恒一:

「それだけか?」


---


---


夏音:

「それだけじゃないです」


---


恒一:

「ん?」


---


---


 夏音は少し照れる。


---


---


夏音:

「恋人も続けてください」


---


---


 一瞬。


---


 二人とも吹き出した。


---


---


恒一:

「そっちが本題だろ」


---


---


夏音:

「ばれました」


---


---


 笑い声が雪景色に響く。


---


---


 しばらくして。


---


 恒一は静かに言った。


---


---


恒一:

「続けるよ」


---


---


夏音:

「本当ですか」


---


---


恒一:

「作家の一番最初の読者も」


---


恒一:

「恋人も」


---


---


 少し間。


---


---


恒一:

「その先も」


---


---


 夏音の目が大きくなる。


---


---


 言葉の意味は。


---


 ちゃんと伝わったらしい。


---


---


夏音:

「……ずるいです」


---


---


 目が少し潤んでいた。


---


---


夏音:

「旅行の最後にそういうこと言うので」


---


---


恒一:

「本当のことだからな」


---


---


 雪が光る。


---


 冬の空が広がる。


---


---


 この旅行で。


---


 二人は特別なことをしたわけじゃない。


---


 世界を変えたわけでもない。


---


---


 ただ。


---


 一緒に歩いて。


 一緒に笑って。


 一緒に未来の話をした。


---


---


 それだけ。


---


 でも。


---


 それだけで十分だった。


---


---


 帰りの電車の中。


---


 夏音は恒一の肩にもたれながら眠っていた。


---


 窓の外には流れる雪景色。


---


---


 恒一はそっと微笑む。


---


---


 教師になった。


---


 夢を叶えた。


---


 そして。


---


 好きな人と旅をした。


---


---


 人生はまだ途中だ。


---


 きっとこれからも悩む。


---


 迷う。


---


 立ち止まる。


---


---


 でも。


---


 隣にこの人がいるなら。


---


 その未来も悪くない。


---


## 第二部・冬編 完


---


### 次章


## 第三部・春編


### 「桜が咲くころ、僕たちは」


新学期。

教師二年目の恒一。


そして第二作の執筆が始まる夏音。


二人の関係は、さらに大きな一歩を迎える――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ