表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
69/101

## エピソード78 ### 「旅館の夜、眠れない二人」

## エピソード78


### 「旅館の夜、眠れない二人」


---


 夜十一時。


---


 旅館の廊下は静かだった。


---


 遠くで聞こえるのは、温泉の水音だけ。


---


 恒一は浴衣姿のまま、自販機の前に立っていた。


---


(眠れねえ……)


---


 理由は分かっている。


---


 旅行。


 二人きり。


 同じ旅館。


---


 落ち着けるわけがなかった。


---


 缶コーヒーを買う。


---


「先生」


---


 後ろから声。


---


 振り返る。


---


 夏音。


---


 浴衣。


 少し濡れた髪。


---


 その瞬間。


---


 思考が止まる。


---


夏音:

「固まりました?」


---


恒一:

「……いや」


---


夏音:

「嘘です」


---


 絶対バレていた。


---


---


## 自販機前


 夏音も温かいミルクティーを買う。


---


 湯気。


 静かな夜。


---


 少しだけ距離が近い。


---


 浴衣のせいか。


 旅館のせいか。


---


 いつもより、お互いが近く感じる。


---


夏音:

「先生も眠れないんですか」


---


恒一:

「まあ、少し」


---


夏音:

「子どもみたいです」


---


恒一:

「お前もだろ」


---


 夏音が少し笑う。


---


---


## 夜のロビー


 二人はロビーのソファへ移動する。


---


 窓の外には雪。


---


 暖色の灯り。


---


 静かな空間。


---


 旅館って不思議だった。


---


 現実から少しだけ切り離されている。


---


 だから。


---


 普段なら言えないことも、少し言えそうになる。


---


---


## 深夜の会話


 しばらく沈黙。


---


 でも、その沈黙は嫌じゃない。


---


夏音:

「先生」


---


恒一:

「ん?」


---


夏音:

「最近、幸せですか」


---


 突然だった。


---


 でも。


---


 恒一は少し考えて、ちゃんと答える。


---


恒一:

「……幸せだと思う」


---


 夏音の目が少し揺れる。


---


恒一:

「前はさ」


---


恒一:

「“未来”って、ずっと遠かった」


---


 静かな声。


---


恒一:

「教師になれるかも分かんなかったし」


---


恒一:

「誰かとこうなるとも思ってなかった」


---


 夏音は黙って聞いている。


---


恒一:

「でも今は」


---


 少し笑う。


---


恒一:

「来年の話とか、普通に考えてる」


---


 夏音が小さく息を飲む。


---


---


## 夏音の本音


 少しして。


---


夏音:

「私もです」


---


 窓の外を見る。


 雪。


---


夏音:

「昔は、“このままずっと一人なんだろうな”って思ってました」


---


 その声は静かだった。


---


 でも、少しだけ寂しさが混ざっていた。


---


夏音:

「誰かと一緒に未来を考えるなんて」


---


夏音:

「自分にはないと思ってた」


---


 恒一は何も言わない。


---


 ただ、隣で聞く。


---


 それだけでいい気がした。


---


---


## 少しだけ近い距離


 ロビーには誰もいない。


---


 時計の音だけが響く。


---


 夏音が小さく笑う。


---


夏音:

「でも今は」


---


 少し間。


---


夏音:

「先生となら、未来の話したいです」


---


 胸が熱くなる。


---


 静かに。


 でも、確かに。


---


 恒一はゆっくり息を吐く。


---


恒一:

「……俺も」


---


 短い言葉。


---


 でも。


---


 それだけで十分だった。


---


---


## 部屋へ戻る前


 立ち上がる。


---


 夜は深い。


---


 廊下へ向かう途中。


---


 夏音が、そっと袖を掴む。


---


恒一:

「ん?」


---


 夏音は少し迷って。


---


 そして、小さく言う。


---


夏音:

「今日」


---


夏音:

「旅行、来てよかったです」


---


 その顔は、少し照れていた。


---


 恒一は笑う。


---


恒一:

「……俺も」


---


 雪はまだ降っている。


---


 静かな旅館の夜。


---


 でも二人の距離は。


---


 もう、最初の頃には戻れないくらい近くなっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ