表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
65/101

## エピソード74 ### 「春になる前に」

## エピソード74


### 「春になる前に」


---


 二月。


---


 雪は減った。


 でも風はまだ冷たい。


---


 恒一は職員室の窓から、夕方の校庭を見ていた。


---


 サッカーをしている子どもたち。


 笑い声。


---


 その光景を見ながら、少しだけ思う。


---


(ちゃんと、“先生”になってきたのかもな)


---


 最初は余裕なんてなかった。


---


 授業をするだけで精一杯。


 子どもたちの言葉に傷つく日もあった。


---


 でも今は違う。


---


 完璧じゃない。


 失敗もする。


---


 それでも、“ここにいていい”と思える。


---


---


## 職員室


「朝倉先生」


---


 先輩教師が声をかけてくる。


---


「最近、生徒から人気ありますよ」


---


恒一:

「は?」


---


「“国語楽しい”って言う子、増えました」


---


 一瞬、言葉が止まる。


---


 そんなこと、考えたこともなかった。


---


 でも。


---


 胸の奥が少し熱くなる。


---


---


## 夜


 帰宅。


---


 スマホが震える。


---


夏音:

「先生、お疲れさまです」


---


恒一:

「そっちも」


---


夏音:

「今日、感想をもらいました」


---


恒一:

「また?」


---


夏音:

「“前を向けました”って」


---


 少し間。


---


夏音:

「泣きました」


---


 恒一は小さく笑う。


---


恒一:

「泣きすぎだろ」


---


夏音:

「先生のせいです」


---


恒一:

「なんでだよ」


---


夏音:

「感情を言葉にしていいって、教えたので」


---


 その一文に、恒一は少し黙る。


---


 以前の自分なら。


---


 こんなふうに誰かに必要とされる未来なんて、信じなかった。


---


---


## 深夜の通話


 その夜。


 二人は久しぶりに長電話をしていた。


---


 仕事の話。


 子どもの話。


 読者の話。


---


 そして。


---


 未来の話。


---


夏音:

「先生」


---


恒一:

「ん?」


---


夏音:

「春になったら、また新しい子たち来ますね」


---


恒一:

「だな」


---


夏音:

「怖いですか」


---


 恒一は少し考える。


---


恒一:

「……少し」


---


 正直に答える。


---


恒一:

「でも、前ほどじゃない」


---


夏音:

「どうしてですか」


---


 窓の外を見る。


 夜。


 静かな街。


---


恒一:

「一人じゃないからかもな」


---


 通話の向こうが静かになる。


---


 そして。


---


夏音:

「……ずるいです」


---


恒一:

「なんで」


---


夏音:

「そういうこと、急に言うので」


---


 少し笑う。


---


 前なら、絶対に言えなかった。


---


 でも今は違う。


---


 伝えたいと思う。


---


 ちゃんと言葉にしたいと思う。


---


---


## 数日後


 休日。


---


 二人は大きな書店へ来ていた。


---


 夏音の詩集コーナー。


---


 そこには手書きPOPが置かれていた。


---


> “静かに心へ届く一冊”


---


 夏音はそれを見て、少し目を丸くする。


---


夏音:

「すごい……」


---


恒一:

「ちゃんと届いてんじゃん」


---


 夏音は静かに本を手に取る。


---


 そして、小さく言う。


---


夏音:

「先生」


---


恒一:

「ん?」


---


夏音:

「次の本は」


---


 少し照れながら笑う。


---


夏音:

「もっと幸せな話を書きたいです」


---


 恒一は、その言葉を聞いて少し笑った。


---


 最初に出会った頃。


---


 夏音の言葉は、孤独だった。


 痛みの中にいた。


---


 でも今は違う。


---


 未来を書こうとしている。


---


 幸せを書こうとしている。


---


 それが、どうしようもなく嬉しかった。


---


---


## 帰り道


 夕暮れ。


---


 二人は並んで歩く。


---


 信号待ち。


---


 恒一はふと、夏音を見る。


---


 笑っている。


---


 ちゃんと前を向いている。


---


 そして思う。


---


 春になる。


---


 また忙しくなる。


 悩む日もある。


---


 でも。


---


 たぶん大丈夫だ。


---


 この人となら。


---


 ちゃんと、未来へ進んでいける。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ