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## エピソード73 ### 「雪の日の約束」

## エピソード73


### 「雪の日の約束」


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 一月。


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 朝、カーテンを開けると。


 街が白くなっていた。


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「……マジか」


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 雪。


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 しかも結構積もっている。


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 恒一はため息をつきながら支度を始めた。


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 教師に“雪だから休み”はない。


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 むしろこういう日は、朝から子どもたちが異常に元気だ。


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## 学校


「先生ー!!雪!!」


「外行こう!!」


「授業やめよう!!」


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恒一:

「やめねえよ!!」


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 教室が笑い声で埋まる。


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 窓の外では雪が静かに降っている。


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 その景色を見ながら、恒一は少し思う。


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(去年の冬と、全然違うな)


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 去年の今頃。


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 まだ通信大学のレポートに追われながら、介護の仕事をしていた。


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 未来なんて、ぼんやりしていた。


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 でも今は。


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 教室があって。

 子どもたちがいて。

 帰る先みたいな人がいる。


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 人生って、本当に分からない。


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## 放課後


 雪はまだ降っていた。


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 恒一は校門を出たところでスマホを見る。


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夏音:

「先生、生きてますか」


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恒一:

「なんだその確認」


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夏音:

「雪で埋まってないか心配でした」


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恒一:

「子どもじゃねえ」


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夏音:

「でも先生、雪の日ちょっと弱そうです」


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恒一:

「偏見だろ」


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 少し笑う。


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 そして。


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夏音:

「今日、会えますか」


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 その一文で、寒さが少しだけ消える。


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恒一:

「どこ」


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夏音:

「駅前です」


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恒一:

「了解」


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## 夜の駅前


 雪は少し弱くなっていた。


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 イルミネーションが光っている。


 白い景色。


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 夏音はマフラーに顔を埋めながら立っていた。


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恒一:

「寒そうだな」


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夏音:

「寒いです」


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恒一:

「帰れよ」


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夏音:

「先生に会いたかったので」


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 さらっと言う。


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 最近、本当にこういうの増えた。


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 でも。


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 そのたびに嬉しくなる。


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## 冬の自販機


 二人は温かい飲み物を買って、公園のベンチへ向かう。


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 雪が少し積もっている。


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夏音:

「静かですね」


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恒一:

「雪の日だからな」


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 白い息。


 冬の夜。


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 しばらく沈黙。


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 でも、その沈黙は心地いい。


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## 夏音の話


 少しして。


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夏音:

「最近、読者さんから感想が届くんです」


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恒一:

「おお」


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夏音:

「“救われました”って」


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 その言葉で、恒一は少しだけ笑う。


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恒一:

「タイトル通りじゃん」


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夏音:

「でも不思議です」


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夏音:

「私、ずっと“救われる側”だと思ってたので」


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 恒一は静かに聞く。


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夏音:

「なのに今は」


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 少し間。


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夏音:

「誰かに届いてる」


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 その声は、少し震えていた。


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 嬉しさと、信じられなさが混ざった声。


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恒一:

「届くって言っただろ」


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夏音:

「はい」


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夏音:

「先生、正しかったです」


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## 未来の話


 雪が静かに降る。


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 恒一は空を見る。


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恒一:

「なあ」


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夏音:

「はい」


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恒一:

「俺さ」


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 少し間。


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恒一:

「来年も、その先も」


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 言葉を探す。


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恒一:

「こうやって、お前と話してたい」


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 夏音が静かに目を見開く。


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 でも、逃げない。


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 ちゃんと受け取る。


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夏音:

「はい」


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 それだけ。


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 でも、その返事には未来があった。


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## 帰り道


 二人は並んで歩く。


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 雪を踏む音。


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 白い景色の中。


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 恒一はふと思う。


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 教師になったこと。


 詩を書いたこと。


 夏音に出会ったこと。


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 全部、偶然みたいに始まった。


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 でも。


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 今なら少し分かる。


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 人生は、“大きな出来事”で変わるんじゃない。


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 一つの言葉。

 一通のメッセージ。

 一緒に歩く夜。


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 そういう小さな時間で、少しずつ変わっていく。


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 そして。


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 その変化は、きっと悪くなかった。


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