表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
63/101

## エピソード72 ### 「冬のはじまりと、新しい教室」

## エピソード72


### 「冬のはじまりと、新しい教室」


---


 十二月。


 朝の空気は、もう完全に冬だった。


---


 吐いた息が白い。


---


 恒一はマフラーを巻きながら学校へ向かっていた。


---


 駅前の本屋には、まだ夏音の詩集が並んでいる。


---


## 『君の詩に、救われた』


---


 その光景を見るたびに、少し不思議になる。


---


 あの夜。


 スマホ越しに詩を送り合っていた時間が。


---


 今は、本として誰かの手に渡っている。


---


 人生って、本当に分からない。


---


---


## 教室


「先生ー!雪降るかな!」


「朝倉先生ってクリスマス暇そう!」


---


恒一:

「うるせえ!」


---


 教室が笑う。


---


 以前より、子どもたちとの距離が近くなっていた。


---


 怒るだけじゃない。


 ちゃんと笑える。


---


 そして。


---


 言葉を渡せるようになってきた。


---


---


## 放課後


 教室の掃除が終わる。


---


 一人の女子生徒が、帰り際に小さな紙を渡してきた。


---


「先生、これ」


---


恒一:

「ん?」


---


 開く。


---


> “先生の授業、前より国語好きになった”


---


 一文だけ。


---


 でも。


---


 恒一はしばらく動けなかった。


---


(……届いてる)


---


 また。


---


 ちゃんと。


---


---


## 夜


 恒一は、その紙を机の上に置いたままスマホを開く。


---


夏音:

「今日も先生してましたか」


---


恒一:

「なんだよその聞き方」


---


夏音:

「最近、顔つき変わったので」


---


恒一:

「またそれか」


---


 少し迷う。


---


 でも今日は、ちゃんと伝えたくなった。


---


恒一:

「今日さ」


---


恒一:

「“授業好きになった”って言われた」


---


 既読。


---


 数秒。


---


夏音:

「……よかったですね」


---


 その短い言葉が、やけに優しい。


---


恒一:

「ちょっと泣きそうだった」


---


夏音:

「先生、涙もろいです」


---


恒一:

「うるせえ」


---


 でも否定できない。


---


---


## 数日後


 休日。


---


 二人は小さな喫茶店にいた。


---


 窓の外では、少しだけ雪が降っている。


---


夏音:

「冬ですね」


---


恒一:

「だな」


---


 夏音はコーヒーカップを両手で持ちながら、小さく笑う。


---


夏音:

「去年の今頃、こんな未来想像してませんでした」


---


 恒一も同じだった。


---


 教師になること。


 本が出ること。


 誰かと並んで冬を過ごすこと。


---


 全部、遠かった。


---


---


## 新しい話


 夏音はバッグからノートを取り出す。


---


恒一:

「また新作か?」


---


夏音:

「はい」


---


 少し照れながら笑う。


---


夏音:

「今度は、“教師”を書くかもしれません」


---


恒一:

「やめろ」


---


夏音:

「人気出そうです」


---


恒一:

「絶対盛るだろ」


---


夏音:

「少しだけ」


---


 笑う。


---


 その笑いが、あまりにも自然で。


---


 恒一はふと思う。


---


 恋って、“特別な瞬間”だけじゃない。


---


 こういう。


---


 何でもない会話の積み重ねなんだろう。


---


---


## 帰り道


 雪が少し強くなる。


---


 夏音が立ち止まる。


---


夏音:

「先生」


---


恒一:

「ん?」


---


夏音:

「寒いです」


---


恒一:

「そりゃ冬だからな」


---


夏音:

「そうじゃなくて」


---


 少し間。


---


夏音:

「手、繋いでください」


---


 一瞬だけ笑う。


---


恒一:

「最初より素直になったな」


---


夏音:

「先生のせいです」


---


 そして。


---


 重なる手。


---


 白い息。


 冬の夜。


---


 でも、不思議と寒くない。


---


 恒一は空を見る。


---


 人生はまだ途中だ。


---


 教師としても。


 書く人としても。


---


 でも。


---


 隣にこの人がいるなら。


---


 ちゃんと進める気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ