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## エピソード70 ### 「並んで帰る未来」

## エピソード70


### 「並んで帰る未来」


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 秋の風は、少しだけ優しかった。


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 駅から住宅街へ続く道。


 二人はゆっくり歩いていた。


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 手はまだ繋がっている。


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 最初はぎこちなかったのに。


 時間が経つほど自然になっていく。


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恒一:

「なんか、不思議だな」


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夏音:

「何がですか」


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恒一:

「こういうの」


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 手を少し見る。


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恒一:

「俺、恋愛とか向いてないと思ってた」


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 夏音は少し笑う。


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夏音:

「まだ言ってるんですね」


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恒一:

「だって実際そうだろ」


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夏音:

「でも、ちゃんと隣歩いてます」


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 その言葉に、少しだけ黙る。


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 確かにそうだった。


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 逃げてばかりだった自分が。


 人との距離を怖がっていた自分が。


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 今はこうして、誰かと未来の話をしている。


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## コンビニ前


 自動ドアが開く。


 夜のコンビニの明かり。


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夏音:

「先生、飲み物買います?」


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恒一:

「先生言うなって」


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夏音:

「もう無理です」


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恒一:

「なんでだよ」


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夏音:

「好きな呼び方なので」


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 さらっと言われて、言葉が止まる。


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恒一:

「……お前、最近そういうの多いな」


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夏音:

「恋人なので」


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 またそれだ。


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 でも、そのたびに少し嬉しくなる自分がいる。


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## 夜のベンチ


 コンビニの帰り。


 二人は小さな公園のベンチに座る。


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 温かい缶コーヒー。


 静かな住宅街。


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 少し沈黙。


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 でも、その沈黙は心地いい。


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夏音:

「先生」


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恒一:

「ん?」


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夏音:

「最近、詩書いてますか」


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恒一:

「まあ、少し」


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夏音:

「見たいです」


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恒一:

「嫌だ」


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夏音:

「なんでですか」


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恒一:

「恥ずいから」


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 夏音は少し笑う。


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夏音:

「前と逆ですね」


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恒一:

「何が」


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夏音:

「最初は先生が“見せろ”って言ってました」


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 確かにそうだった。


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 あの頃は、まだ距離があった。


 言葉だけが繋がっていた。


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 でも今は違う。


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 近いからこそ、逆に恥ずかしい。


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恒一:

「……一個だけなら」


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 スマホを取り出す。


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 メモアプリを開く。


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> 好きな人がいると

> 世界は急に優しくなるわけじゃない

>

> 仕事は疲れるし

> 将来は不安だし

> 夜は眠れない日もある

>

> それでも

> “明日を話したい相手”がいるだけで

> 人は少し強くなれる


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 読み終わる。


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 静かになる。


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 夏音はしばらく何も言わない。


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恒一:

「……なんか言えよ」


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 すると。


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 夏音は少し俯いたまま、小さく言う。


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夏音:

「だめです」


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恒一:

「は?」


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夏音:

「好きすぎます」


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 思わず吹き出す。


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恒一:

「なんだそれ」


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夏音:

「ずるいです」


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 夏音の耳が少し赤い。


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 その顔を見て、恒一は思う。


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 ああ。


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 この人、本当に自分のこと好きなんだな。


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 そして同時に。


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 自分も、同じくらい好きなんだと思う。


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## 帰り際


 駅前。


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 別れの時間。


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 でも以前みたいな“終わり”の感じはない。


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 また連絡する。


 また会う。


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 それが自然に分かっている。


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夏音:

「先生」


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恒一:

「ん?」


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夏音:

「来年くらいには」


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恒一:

「うん」


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夏音:

「もっと有名な詩人になってるかもしれません」


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恒一:

「自信あるな」


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夏音:

「隣にいい読者がいるので」


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 少し笑う。


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恒一:

「読者だけか?」


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 その瞬間。


 夏音が少しだけ目を丸くする。


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 そして。


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夏音:

「……恋人でもあります」


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 その答えに、恒一は満足そうに笑った。


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 秋の夜風が、静かに二人の間を通り抜けていく。


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 でももう。


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 その風は、二人を離すものじゃなかった。


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