## エピソード69 ### 「あなたの本屋」
## エピソード69
### 「あなたの本屋」
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十月。
風が少し冷たくなり始めていた。
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学校帰り。
恒一は駅前の小さな本屋に立ち寄っていた。
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本当は、別に用事なんてなかった。
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でも最近、無意識に本屋へ入ることが増えた。
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“本を出す人”が隣にいる。
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それだけで、本棚の見え方が変わってしまった。
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詩集コーナー。
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細い本が並んでいる。
静かなタイトルたち。
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その中に、ふと思う。
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(ここに、夏音の本が並ぶのか)
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想像した瞬間。
胸の奥が少し熱くなる。
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スマホが震える。
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夏音:
「今なにしてますか」
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恒一:
「本屋」
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すぐ既読。
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夏音:
「似合いますね」
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恒一:
「お前、最近なんでも褒めるな」
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夏音:
「事実です」
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恒一:
「適当だろ」
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夏音:
「先生のそういうところ、好きです」
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思わず本を閉じる。
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(心臓に悪い……)
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## 本屋の帰り道
夜風。
コンビニの明かり。
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恒一は歩きながら、少し考える。
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恋人。
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その言葉には、まだ慣れない。
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でも、嫌じゃない。
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むしろ。
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ようやく、自分の人生にも“普通の幸せ”が来た気がしていた。
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## 夜のメッセージ
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夏音:
「先生」
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恒一:
「なんだ」
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夏音:
「もし本屋に私の本が並んだら」
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夏音:
「最初に見つけてください」
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少し静かになる。
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その光景を想像する。
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本棚。
並ぶ詩集。
その中に。
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## 『君の詩に、救われた』
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恒一は小さく笑う。
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恒一:
「見つけるに決まってるだろ」
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既読。
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少し長い沈黙。
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夏音:
「……嬉しいです」
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## 休日
次の日。
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二人は久しぶりに昼から会っていた。
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駅前のショッピングモール。
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以前の二人なら考えられないくらい、“普通のデート”だった。
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恒一:
「人多すぎだろ……」
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夏音:
「先生、人混み苦手ですか」
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恒一:
「少しな」
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夏音:
「じゃあ、手つなぎますか」
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一瞬、思考が止まる。
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恒一:
「は?」
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夏音:
「迷子防止です」
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恒一:
「子どもじゃねえんだぞ」
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夏音:
「でも先生、すぐいなくなりそうなので」
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笑っている。
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でも少し照れているのが分かる。
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恒一はため息をつく。
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恒一:
「……ほら」
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不器用に手を出す。
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夏音が少し目を丸くする。
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夏音:
「先生からですか」
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恒一:
「うるせえ」
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そして。
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そっと手が重なる。
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温かい。
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その瞬間。
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今まで“言葉”だけだった関係が、本当に現実になった気がした。
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## 帰り道
夕方。
空がオレンジ色に染まっている。
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二人はゆっくり歩く。
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手は、まだ繋がったままだ。
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夏音:
「不思議ですね」
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恒一:
「何が」
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夏音:
「前は、画面の中だけだったのに」
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恒一は少し笑う。
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恒一:
「だな」
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夏音:
「でも今のほうが、好きです」
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その一言で、胸の奥が静かに温かくなる。
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恒一は空を見る。
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教師になった。
詩を書いた。
本が生まれようとしている。
そして、好きな人が隣にいる。
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全部、昔は遠かった。
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でも今は。
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ちゃんと、自分の人生の中にあった。




