表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
59/101

## エピソード68 ### 「恋人になった、その次の日」

## エピソード68


### 「恋人になった、その次の日」


---


 次の日。


---


 恒一は、ほとんど眠れなかった。


---


 理由は分かっている。


---


> 「好きです」

>

> 「俺も好きだ」


---


 たったそれだけ。


---


 でも、その言葉が何度も頭の中を回っていた。


---


 教師になった日より。


 初めて授業した日より。


---


 ずっと落ち着かない。


---


---


## 朝の教室


 黒板に日付を書く。


---


 いつもの朝。


 いつもの教室。


---


 でも、自分だけ少し違う。


---


「先生、なんか今日にやにやしてる」


---


 女子生徒の一言で固まる。


---


恒一:

「してねえよ」


---


「してるー!」


---


「朝倉先生、なんかあったー?」


---


 教室が笑い声で埋まる。


---


 恒一は思わずため息をつく。


---


(子どもってなんでこういうの敏感なんだよ……)


---


 でも、悪い気はしない。


---


---


## 放課後


 職員室。


---


 スマホが震える。


---


夏音:

「先生」


---


 その呼び方だけで少し笑ってしまう。


---


恒一:

「なんだ」


---


夏音:

「今、恋人なんですよね」


---


 思わずむせる。


---


恒一:

「急に言うな!」


---


夏音:

「事実確認です」


---


恒一:

「確認すんな」


---


 既読。


---


夏音:

「でも、少し不思議です」


---


恒一:

「何が」


---


夏音:

「昨日までと同じ人なのに」


---


夏音:

「少し世界が違って見えます」


---


 その感覚は、恒一にも分かる。


---


 景色は同じ。


 学校も同じ。


 仕事も同じ。


---


 でも。


---


 帰る場所みたいなものが、一つ増えた気がする。


---


---


## 夜の電話


 夜十時。


---


 通話が繋がる。


---


夏音:

「お疲れさまです」


---


恒一:

「そっちも」


---


 少し沈黙。


---


 でも、その沈黙すら前より柔らかい。


---


夏音:

「今日、何回くらい私のこと考えましたか」


---


恒一:

「は?」


---


夏音:

「質問です」


---


恒一:

「知らねえよ」


---


夏音:

「十回以上ですね」


---


恒一:

「なんで断定なんだよ」


---


 笑い声。


---


 以前より、ずっと自然に笑える。


---


---


## 本の話


 少しして。


---


夏音:

「詩集、正式に出せそうです」


---


恒一:

「マジか」


---


夏音:

「小さな出版社ですけど」


---


恒一:

「いや、十分すごいだろ」


---


 夏音は少し静かになる。


---


夏音:

「怖いです」


---


恒一:

「まだ言ってんのか」


---


夏音:

「だって、読まれるので」


---


恒一:

「読まれろ」


---


 少し間。


---


恒一:

「お前の言葉、届くから」


---


 静かになる。


---


 通話の向こうで、夏音が息を飲むのが分かった。


---


夏音:

「……そういうところです」


---


恒一:

「何が」


---


夏音:

「好きなの」


---


 今度は恒一が黙る番だった。


---


---


## 深夜


 通話が終わったあと。


---


 恒一は机に向かう。


---


 ノートを開く。


---


 自然にペンが動く。


---


> 誰かを好きになると

> 世界は変わらないまま

> 少しだけ光り方が変わる

>

> 教室の声も

> 夜のコンビニも

> 帰り道も

>

> 全部そのままなのに

> 前より少し

> 生きている感じがする


---


 書き終えて、小さく笑う。


---


 そして気づく。


---


 詩を書く理由が、また変わっている。


---


 もう“苦しみ”だけじゃない。


---


 ちゃんと、幸せのためにも書いている。


---


 それが少しだけ、嬉しかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ