表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
58/101

## エピソード67 ### 「好きという答え」

## エピソード67


### 「好きという答え」


---


 風が吹く。


---


 公園の木々が小さく揺れる。


---


 夏音は笑っていた。


 でも、その笑顔は少しだけ震えていた。


---


 恒一は、本を持ったまま立ち尽くしている。


---


 逃げない。


---


 そう言った。


---


 でも、本当はまだ少し怖い。


---


 “関係に名前がつく”ということが。


---


 曖昧だったものが、形になることが。


---


 夏音がゆっくり口を開く。


---


夏音:

「先生」


---


恒一:

「だからその呼び方……」


---


夏音:

「好きです」


---


 世界が静かになる。


---


 風の音だけが遠く聞こえる。


---


 恒一は、一瞬言葉を失う。


---


 分かっていた。


 きっとそうなんだろうと思っていた。


---


 でも。


---


 “言葉になる”のは全然違った。


---


 重さがある。


 熱がある。


---


 夏音は続ける。


---


夏音:

「最初は、読者でした」


---


夏音:

「でも、気づいたら」


---


 少しだけ笑う。


---


夏音:

「あなたの言葉だけじゃなくて」


---


夏音:

「あなた自身を見ていました」


---


 恒一は動けない。


---


 教師として悩む顔。


 疲れている顔。


 不器用に優しいところ。


---


 全部見られていた。


---


夏音:

「怖かったです」


---


夏音:

「近づくのも」


---


夏音:

「好きになるのも」


---


 その声は少し震えていた。


---


 でも逃げない。


---


 夏音も、もう逃げない。


---


 恒一はゆっくり息を吐く。


---


恒一:

「……ずるいな」


---


夏音:

「またそれですか」


---


恒一:

「だって」


---


 少し笑う。


---


恒一:

「そんな言い方されたら、逃げられねえだろ」


---


 夏音の目が少しだけ揺れる。


---


 恒一は本を抱えたまま、ゆっくり言う。


---


恒一:

「俺も」


---


 喉が少し詰まる。


---


 でも、ちゃんと言う。


---


恒一:

「好きだ」


---


 短い。


---


 飾りもない。


 詩みたいな綺麗さもない。


---


 でも。


---


 今までのどの言葉より、本当だった。


---


 夏音が少しだけ俯く。


---


 そして、小さく笑う。


---


夏音:

「やっと言いましたね」


---


恒一:

「うるせえ」


---


 でも、笑ってしまう。


---


---


## 少しだけ近い距離


 沈黙。


---


 でも、もう苦しくない。


---


 恒一はベンチに座る。


 夏音も隣に座る。


---


 肩は触れない。


---


 でも。


---


 以前より、ずっと近い。


---


恒一:

「なあ」


---


夏音:

「はい」


---


恒一:

「これから、どうなるんだろうな」


---


 正直な言葉。


---


 夏音は少し考える。


---


夏音:

「たぶん」


---


夏音:

「普通に、会ったりするんだと思います」


---


恒一:

「普通か」


---


夏音:

「だめですか?」


---


恒一:

「いや」


---


 少し笑う。


---


恒一:

「悪くない」


---


---


## 夜


 空には少しだけ星が見えていた。


---


 恒一は思う。


---


 出会った頃。


---


 二人は、言葉の中にいた。


---


 でも今は違う。


---


 ちゃんと現実を歩いている。


---


 教師として。

 詩を書く人として。

 そして、誰かを好きな人として。


---


 夏音が静かに言う。


---


夏音:

「先生」


---


恒一:

「ん?」


---


夏音:

「次の本も書きたいです」


---


恒一:

「もう次かよ」


---


夏音:

「だめですか?」


---


恒一:

「……いいんじゃね」


---


 その答えで、夏音は嬉しそうに笑った。


---


 その笑顔を見ながら、恒一は思う。


---


 たぶん。


---


 この先も、簡単じゃない。


---


 仕事も。

 人生も。

 恋も。


---


 でも。


---


 もう一人じゃない。


---


 それだけで、少し未来が明るく見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ