# エピソード51 ## 「初めて会う日、少しだけ現実」
# エピソード51
## 「初めて会う日、少しだけ現実」
---
待ち合わせの駅は、思っていたより普通だった。
特別でもなく、ドラマチックでもない。
ただ、人が行き交ういつもの場所。
---
恒一はホームの柱にもたれていた。
スマホを見ても、もうメッセージは送っていない。
---
「……ほんとに来るのかよ」
少しだけ不安になる。
---
そのとき。
後ろから声。
---
「遅いですか?」
---
振り向く。
---
夏音がそこにいた。
---
画面越しで何度も見た“言葉の人”が、立っている。
---
でも、少し違う。
画面の中より、ずっと普通で、ずっと人間だった。
---
恒一:
「いや……別に」
---
夏音:
「そうですか」
---
少し間。
---
変な沈黙。
---
恒一は笑いそうになる。
---
恒一:
「思ったより普通だな」
---
夏音:
「それ二回目ですね」
---
恒一:
「覚えてんのかよ」
---
夏音:
「覚えてます」
---
そのやりとりで、少しだけ空気がほどける。
---
---
## エピソード52
### 「沈黙で歩く」
---
二人は歩いていた。
目的地はない。
ただ、駅前から少し離れた川沿い。
---
会話は少ない。
でも、気まずくはない。
---
スマホのときと違う。
“送信ボタン”がないだけで、世界が少し広い。
---
夏音:
「不思議ですね」
---
恒一:
「何が」
---
夏音:
「画面の中より、言葉が少ないです」
---
恒一:
「そりゃそうだろ」
---
夏音:
「でも、落ち着きます」
---
その言葉で、少しだけ胸が軽くなる。
---
川の音。
風。
---
沈黙が続く。
---
恒一はふと思う。
この人といると、無理に喋らなくていい。
---
それが少し怖くて、少し嬉しい。
---
恒一:
「なあ」
---
夏音:
「はい」
---
恒一:
「俺さ」
---
少し間。
---
恒一:
「こういうの、向いてないと思ってた」
---
夏音:
「何がですか」
---
恒一:
「人とちゃんと会うとか」
---
夏音は少しだけ笑う。
---
夏音:
「今もそう思ってますか」
---
恒一は少し考える。
---
恒一:
「……ちょっと違うかも」
---
その瞬間、夏音が小さくうなずく。
---
---
## エピソード53
### 「言葉にならない距離」
---
帰り道。
駅に戻る途中。
---
夏音が立ち止まる。
---
夏音:
「今日、ありがとうございます」
---
恒一:
「いや別に」
---
夏音:
「ちゃんと会ってくれて」
---
その言葉で、少しだけ心が止まる。
---
恒一:
「逆だろ」
---
恒一:
「来たのはお前だし」
---
夏音:
「でも、逃げなかったので」
---
その一言が静かに残る。
---
駅の明かり。
人の流れ。
---
別れ際。
---
夏音:
「また、会えますか」
---
恒一は少しだけ迷う。
---
でも、もう迷い方が違う。
---
恒一:
「会うだろ」
---
短い返事。
---
でもそれで十分だった。
---
夏音は少しだけ笑う。
---
夏音:
「じゃあ、続きですね」
---
その言葉で、また始まる。
---
ここから先はもう“言葉だけの関係”ではない。
でも“言葉がなくなる関係”でもない。
---
そして同じ頃。
恒一はもう一つの現実に向き合い始めていた。
---
# 次回
## エピソード54「教室という戦場」
---




