## エピソード47 ### 「選ばされる側」
## エピソード47
### 「選ばされる側」
その夜から、夏音の連絡はさらに減った。
消えたわけじゃない。
でも“必要最低限”に近い。
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恒一は、それを「戻った」とは思えなかった。
むしろ、少しだけ形を変えた“距離の固定”だった。
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夜勤明けの電車。
窓の外は晴れている。
なのに気分だけが重い。
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スマホを開く。
メモはもうほとんど更新されていない。
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「……書けねえな」
誰に向けるでもない声。
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そのとき気づく。
自分は“書けない”のではなく、
“書く方向を失っている”。
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以前は、夏音がいた。
読者がいた。
返事があった。
だから書けた。
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今は違う。
書く理由が、曖昧になっている。
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夜。
施設の休憩室。
恒一は椅子にもたれたまま動かない。
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スマホが鳴る。
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夏音:
「少しだけ話せますか」
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久しぶりの“少しだけ”。
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恒一:
「どこだよ」
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夏音:
「いつもの場所です」
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駅前の公園。
またそこか、と小さく思う。
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数十分後。
夜の公園。
ベンチに夏音はいた。
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前より少しだけ痩せたように見える。
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「久しぶりですね」
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恒一:
「そうだな」
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以前のような軽さはない。
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沈黙が長い。
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恒一は隣に座る。
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恒一:
「なあ」
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夏音:
「はい」
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恒一:
「結局さ」
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言葉を探す。
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恒一:
「俺たちって何なんだよ」
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その問いは、ずっと避けてきたものだった。
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夏音はすぐに答えない。
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風が少しだけ吹く。
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夏音:
「選ばされる関係だと思います」
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恒一:
「選ばされる?」
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夏音:
「はい」
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夏音:
「近づくか、離れるかを」
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夏音:
「ずっと選び続ける関係です」
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その言葉で、胸が重くなる。
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恒一:
「じゃあ今は?」
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既読。
少し間。
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夏音:
「一番、曖昧な場所です」
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その一言で、すべてが整理されかけて、また崩れる。
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恒一は空を見上げる。
星は見えない。
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恒一:
「めんどくせえな」
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小さく笑う。
でも、笑いは弱い。
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夏音:
「でも、書けていましたよね」
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恒一:
「……あ?」
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夏音:
「この関係の中で、書いていました」
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その言葉で、少しだけ息が止まる。
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そうだ。
書いていた。
確かに。
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不安でも、曖昧でも、怖くても。
書けていた。
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恒一:
「今は?」
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夏音:
「止まっています」
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正直すぎる答え。
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恒一は小さく笑う。
「だよな」
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沈黙。
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そのとき、夏音が初めて少しだけ視線を上げる。
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夏音:
「朝倉さん」
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恒一:
「なんだよ」
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夏音:
「選んでください」
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その一言で、空気が変わる。
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恒一:
「何を」
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夏音:
「続けるのか」
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夏音:
「一度、終わらせるのか」
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はっきりした言葉。
逃げ道のない選択。
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恒一は動けない。
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今までずっと“続いている状態”に甘えていた。
選ばなくていい場所にいた。
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でも、もう違う。
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風が止む。
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公園が静かになる。
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恒一はゆっくり息を吐く。
「……そんなのさ」
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言葉が途切れる。
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そして、気づく。
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これは物語の問題ではない。
自分の人生の問題だ。
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その夜、答えは出なかった。
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ただ一つだけ確かなのは、
この関係は“続くか終わるか”ではなく、
“選ぶ瞬間に来ている”ということだった。




