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## エピソード43 ### 「続きの形」

## エピソード43


### 「続きの形」


 「続きです」


 その言葉だけが、恒一の中で何日も残っていた。


 終わりでもない。

 再会でもない。

 ただ“続き”。


---


 日常は、何事もなかったように進んでいく。


 夜勤。

 介護。

 帰りの電車。


 でも、どこか一枚だけ現実が薄い。


---


 恒一は気づいていた。


 夏音との関係は、消えたわけじゃない。


 ただ、“位置が変わった”。


---


 それが何を意味するのか、まだ分からないまま。


---


 夜。


 部屋。


 机の上に本を置く。


 自分の詩集。


---


 ページを開く。


---


> 言葉は

> いつも少し遅れてやってくる

>

> それでも

> 必ず誰かの時間に届く


---


 その「誰か」は、もう遠くの読者だけじゃない気がした。


---


「……届くって、こういうことか」


 小さく呟く。


---


 スマホが鳴る。


---


夏音:

「元気ですか」


---


 短い。


 でも、それが逆に“戻ってきた距離”を感じさせた。


---


恒一:

「まあな」


---


夏音:

「そうですか」


---


 少し間。


---


恒一:

「お前さ」


---


夏音:

「はい」


---


恒一:

「“続き”って何なんだよ」


---


 既読。


 少し長い沈黙。


---


夏音:

「終わらないことです」


---


恒一:

「それは分かる」


---


夏音:

「でも」


---


夏音:

「同じ形で続くとは限りません」


---


 その言葉で、胸の奥が少しだけ動く。


---


恒一:

「じゃあ今の俺たちは何だよ」


---


 既読。


 すぐには返ってこない。


---


 夜の静けさだけが広がる。


---


夏音:

「前より少しだけ」


---


夏音:

「言葉が必要じゃない関係です」


---


 その一文で、呼吸が止まる。


---


 恒一はスマホを握り直す。


---


恒一:

「それってさ」


---


恒一:

「離れてるってことじゃないのか?」


---


 既読。


 長い間。


---


夏音:

「離れているのに、続いているだけです」


---


 静かな答え。


---


 恒一は窓を見る。


 夜の街。


 光は変わらない。


---


「……それ、分かんねえよ」


 小さく笑う。


---


 でも、嫌ではなかった。


---


 翌日。


 施設の廊下。


 同僚が言う。


「朝倉さん、最近落ち着きましたね」


「そうか?」


「なんか、前みたいに焦ってない」


---


 その言葉に、少しだけ納得する。


---


 焦っていたのかもしれない。


 近づこうとしていたのかもしれない。


---


 でも今は違う。


---


 夜。


 帰り道。


 恒一はメモを開く。


---


> 続くというのは

> 同じ場所にいることじゃない

>

> ずれていくことでもない

>

> それでも消えないことだ


---


 書いて、少しだけ止まる。


---


「……これでいいのか?」


 分からない。


 でも、消さない。


---


 そのとき、スマホが震える。


---


夏音:

「いいですね」


---


恒一:

「またそれかよ」


---


夏音:

「でも本当です」


---


 少し間。


---


夏音:

「ちゃんと“今の言葉”になってます」


---


 その言葉で、少しだけ救われる。


---


 恒一は小さく息を吐く。


「……続き、か」


---


 夜の電車が走る。


 その中で、物語は終わらずに、ただ形を変えながら続いていた。


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