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## エピソード42 ### 「会わない理由」

## エピソード42


### 「会わない理由」


 連絡が減ったまま、一週間が過ぎた。


 時間はちゃんと流れているのに、どこかだけ取り残されたような感覚がある。


---


 恒一は何度も考えた。


 送るべきか。

 会いに行くべきか。

 それとも、待つべきか。


 そのどれもが正解に見えて、同時に間違いにも見えた。


---


 夜勤明けの電車。


 窓の外は曇り。


 恒一はスマホを開くが、何も打たない。


---


「……何やってんだろ、俺」


 小さく呟く。


---


 そのとき、ふと気づく。


 夏音に出会ってから、ずっと“答え”を探していた。


 でも本当は、答えなんて最初からなかったのかもしれない。


---


 その夜。


 施設の休憩室。


 恒一は珍しく本を開かなかった。


 ただ椅子に座って、ぼんやりしていた。


---


 スマホが鳴る。


---


夏音:

「少しだけ話せますか」


---


 心臓が一瞬だけ跳ねる。


---


恒一:

「今?」


---


夏音:

「はい」


---


 短い返事。


 でも、いつもより“距離が近い気がする”。


---


 数分後。


 いつもの駅ではなく、少し離れた小さな公園。


 夜のベンチ。


---


 夏音はもうそこにいた。


 前より少し疲れた顔をしている。


---


「久しぶり、って言うほどでもないですね」


 小さく笑う。


---


 恒一はすぐには返せなかった。


「……あんま変わってないな」


---


 夏音は視線を落とす。


「そうですか」


---


 沈黙。


 でも、以前のような“言葉の壁”はなかった。


---


 恒一は隣に座る。


---


「なあ」


---


夏音:

「はい」


---


恒一:

「なんで急に離れようとしたんだよ」


---


 夏音はすぐに答えない。


 風が少しだけ揺れる。


---


夏音:

「離れようとしたわけじゃないです」


---


恒一:

「じゃあ何だよ」


---


 少し間。


---


夏音:

「近くなりすぎたと思いました」


---


 その言葉で、胸が少しだけ重くなる。


---


夏音:

「言葉で繋がっていると」


夏音:

「どこまでが“自分”か分からなくなるので」


---


 恒一は黙る。


---


 その感覚は、どこかで自分も感じていた。


---


恒一:

「じゃあ、俺は?」


---


 夏音がこちらを見る。


---


恒一:

「俺は、お前の中でどうなってたんだよ」


---


 少し間。


---


夏音:

「分からなくなっていました」


---


 正直な言葉。


 逃げでも、嘘でもない。


---


 その正直さが、逆に痛い。


---


 風が止む。


 公園は静かになる。


---


恒一:

「それで、終わりにするつもりだったのか?」


---


 夏音は首を横に振る。


---


夏音:

「終わりにはしたくなかったです」


---


恒一:

「じゃあどうしたかったんだよ」


---


 夏音は少しだけ言葉を探す。


---


夏音:

「距離を、戻したかったんだと思います」


---


恒一:

「戻す?」


---


夏音:

「はい」


---


夏音:

「“書く人と読む人”の距離に」


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 その一言で、空気が変わる。


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 恒一はゆっくり息を吐く。


---


恒一:

「それってさ」


---


恒一:

「俺たちが戻るってことなのか?」


---


 夏音はすぐに答えない。


---


 そして、小さく首を振る。


---


夏音:

「分かりません」


---


 その言葉は、逃げではなかった。


 ただの“今の答え”だった。


---


 沈黙。


---


 恒一は空を見上げる。


 星は見えない。


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「……めんどくせえな」


 そう言って、小さく笑う。


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 夏音も、少しだけ笑う。


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 でも、その笑いの中にあるのは、軽さではなかった。


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 恒一は気づく。


 この人は消えようとしているわけじゃない。


 ただ、“形を変えようとしている”。


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 言葉としての関係から、別の何かへ。


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 その夜、公園を出るとき。


 夏音は小さく言った。


---


夏音:

「まだ、完全には終わってません」


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 恒一は少しだけ立ち止まる。


---


恒一:

「じゃあ何なんだよ」


---


 夏音は少しだけ笑う。


---


夏音:

「……続きです」


---


 その一言だけ残して、夜に溶けていった。


---


 恒一は一人で立ち尽くす。


---


「続き、か……」


---


 その言葉だけが、やけに長く心に残っていた。


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