## エピソード31 ### 「現実の続き」
## エピソード31
### 「現実の続き」
駅前の空気は、思っていたよりもあっさりしていた。
会えた瞬間の衝撃が過ぎると、残るのは妙な静けさだけだった。
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恒一は、夏音を見ていた。
画面の中で何度もやり取りした相手。
でも今は、同じ空気を吸っている。
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「……なんかさ」
恒一は言葉を探す。
「思ってたより普通だな」
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夏音は少しだけ目を細める。
「失礼ですね」
「いや、悪い意味じゃなくて」
「分かってます」
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短いやり取り。
でも、その距離感が不思議と心地いい。
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駅のベンチに座る。
人の流れは止まらない。
でも二人の間だけ、少しだけ時間が遅い。
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恒一:
「お前さ」
夏音:
「はい」
恒一:
「なんで詩書いてるんだ?」
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夏音はすぐには答えない。
少しだけ視線を落とす。
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夏音:
「……最初は、逃げるためでした」
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その一言で、空気が少し変わる。
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夏音:
「言葉の中にいれば、誰にも見つからないと思ってました」
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恒一は黙る。
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夏音:
「でも」
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夏音は小さく息を吐く。
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夏音:
「気づいたら、誰かに見つけられてました」
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その言葉に、胸の奥が静かに揺れる。
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恒一:
「俺もさ」
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少し間。
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恒一:
「最初はただのメモだったんだよ」
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恒一:
「仕事の合間に、なんとなく書いてただけ」
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夏音は静かに聞いている。
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恒一:
「それがいつの間にか、本になってた」
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小さく笑う。
「変だよな」
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夏音は首を横に振る。
「変じゃないです」
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その即答が、少しだけ救いになる。
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風が吹く。
駅前の雑音が遠くなる。
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恒一はふと気づく。
この人といると、“説明しなくていい時間”がある。
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沈黙が怖くない。
ただ流れていく。
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夏音:
「会えてよかったです」
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突然の言葉。
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恒一は少しだけ目を見開く。
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恒一:
「……なんだよ急に」
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夏音:
「ずっと、そう思ってました」
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その一言が、ゆっくり落ちてくる。
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恒一は空を見上げる。
春の光。
少しだけ眩しい。
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恒一:
「俺はさ」
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少し間。
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恒一:
「まだよく分かってない」
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恒一:
「この関係も、自分の詩も」
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夏音は黙っている。
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恒一:
「でも」
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ゆっくり続ける。
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恒一:
「分からないままでも、続いてるのは分かる」
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その言葉で、少しだけ空気が柔らかくなる。
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夏音は小さく笑う。
「それで十分です」
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駅のアナウンスが響く。
人が流れる。
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でも二人はまだ動かない。
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恒一は思う。
この人は“夏音”という名前のまま存在しているけれど、
もうただのメッセージではない。
現実の、ひとりの人間だ。
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そして同時に気づく。
この出会いは、終わりではない。
むしろ――
ここから本当に“物語の外側”に出ていく始まりだ。




