表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/101

## エピソード22 ### 「本になる日」

## エピソード22


### 「本になる日」


 それは、何でもない春の日だった。


 夜勤明けの恒一は、いつものように電車で帰っていた。


 窓の外は淡い青。

 街はまだ完全に目を覚ましていない。


 スマホの通知が鳴る。


 知らない番号からのメール。


---


『はじめまして。○○出版の編集部です』


---


 一瞬、意味が分からなかった。


「……出版?」


 声が漏れる。


---


 続きがあった。


---


『SNSで投稿されている詩を拝見しました』

『短い言葉ですが、非常に印象に残りました』


---


 心臓が少し速くなる。


---


『一度、お話をお伺いできないでしょうか』


---


 恒一はしばらく画面を見つめたまま動けなかった。


---


「……嘘だろ」


 誰にも届かないと思っていたもの。


 ただのメモだと思っていたもの。


---


 電車が駅に着く。


 ドアが開く。


 人が流れていく。


 でも恒一は立ち上がれない。


---


 ようやく返信を打つ。


---


恒一:

「本当に、あの詩ですか?」


---


 少し間。


---


『はい。朝倉様の投稿で間違いありません』


---


 胸の奥がじわりと熱くなる。


---


 その夜。


 休憩室。


 恒一はスマホを握ったまま天井を見ていた。


「本……?」


 まだ実感がない。


---


 そのとき、夏音にメッセージを送る。


---


恒一:

「なあ」


---


夏音:

「はい」


---


恒一:

「出版社から連絡きた」


---


 少し間。


 既読。


---


夏音:

「……すごいですね」


---


 それだけだった。


 でも、その短さに驚きはなかった。


 むしろ、自然だった。


---


恒一:

「俺の詩が、本になるかもしれないって」


---


 送信してから、少し怖くなる。


---


 既読。


---


夏音:

「なると思ってました」


---


 即答だった。


---


恒一:

「なんでそんな簡単に言えるんだよ」


---


夏音:

「だって、届いてましたから」


---


 その一文で、全てが静かに繋がる。


---


 夜勤明けの帰り道。


 恒一は空を見上げた。


 少し眩しい朝。


---


「本か……」


 口にしてみる。


 まだ現実じゃない。


 でも、もう夢でもない。


---


 スマホを握る。


 メモアプリを開く。


 そこには今までの詩が並んでいる。


---


> 夜勤明けの電車は

> 少しだけ静かだ

>

> それでも

> どこかに行きたいと思っている


---


> 言葉にできない感情が

> まだここにある


---


 それを見て、少し笑う。


「こんなのでいいのかよ」


 でも、答えはもう知っている。


---


 そのとき、ふと思う。


 夏音がいなければ、書いていなかったかもしれない。


 でも同時に気づく。


 書き続けていたのは、自分だ。


---


 電車が揺れる。


 朝の光の中で、恒一は小さく呟いた。


「……本になるんだな」


---


 その言葉は、誰にも届かない。


 でも確かに、“未来の現実”に触れていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ