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## エピソード2 ### 「大学生って、こんなに若かったっけ」

# 第一章


## 「28歳の入学式」


---


## エピソード2


### 「大学生って、こんなに若かったっけ」


 体育館の中は、春の空気とざわめきで満ちていた。


 入学式。


 椅子が何列も並び、

 新入生たちが思い思いに座っている。


 恒一は後ろのほうの席に腰を下ろした。


 周囲を見渡す。


 やっぱり若い。


 高校を卒業したばかりのような学生ばかりだった。


 明るい髪。

 流行りの服。

 笑い声。


 その中で、

 自分だけ空気が違う気がした。


 スーツ姿の28歳。


 介護施設帰りの疲れた顔。


「……浮いてるな」


 小さく呟く。


 隣の席は空いていた。


 少し安心する。


 もし誰か座ってきても、

 何を話せばいいかわからなかった。


 前の席では、

 女子学生たちがスマホを向け合っていた。


「ね、写真撮ろー!」


「入学式っぽいやつ!」


 楽しそうだった。


 恒一は視線を落とす。


 自分には、

 ああいう“普通の大学生活”はないのかもしれない。


 そう思った。


 やがて式が始まる。


 学長の話。


 拍手。


 大学紹介。


 でも、

 恒一の頭にはほとんど入ってこなかった。


 眠気もあった。


 それ以上に、

 場違いな感覚のほうが強かった。


「……帰りたいな」


 一瞬だけ思ってしまう。


 その時だった。


「ここ、いいですか?」


 声。


 顔を上げる。


 一人の女の子が立っていた。


 黒髪。


 白いカーディガン。


 胸に小さなノートを抱えている。


「あ、はい」


 恒一は慌てて荷物をどかした。


 彼女は小さく頭を下げ、

 隣に座る。


「ありがとうございます」


 静かな声だった。


 それだけ。


 会話は続かなかった。


 でも。


 彼女は時々、

 ノートに何かを書いていた。


 式の途中でも、

 ずっと。


 恒一は少し気になった。


 メモ?


 授業内容?


 いや。


 そんな感じじゃない。


 もっと、

 何か別のものを書いている気がした。


 彼女の横顔は、

 どこか寂しそうだった。


 やがて式が終わる。


 学生たちが一斉に立ち上がった。


 友達同士で話しながら、

 楽しそうに出口へ向かっていく。


 恒一も立ち上がる。


 すると。


 隣の彼女のノートが床に落ちた。


「あっ……」


 恒一は反射的に拾う。


 ページが少し開く。


 そこに書かれていた言葉が、

 一瞬だけ目に入った。


> 春は、

> 始まりの季節じゃなくて

>

> 置いていかれた人が、

> 前を向く季節だ


 恒一の動きが止まる。


「……」


 心が、

 少しだけ揺れた。


「あ、ありがとうございます」


 彼女は慌ててノートを受け取り、

 少し恥ずかしそうに笑った。


「……詩、ですか?」


 気づけば、

 恒一はそう聞いていた。


 彼女は少し驚いた顔をする。


 でも。


「……はい」


 静かに頷いた。


「詩を書くの、好きなんです」


 その言葉が。


 なぜか、

 恒一の胸に残った。


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