## エピソード19 ### 「それぞれの未来」
## エピソード19
### 「それぞれの未来」
卒業式の日は、思っていたより静かだった。
派手な感動も、劇的な涙もない。
ただ、時間だけが確かに進んでいく日。
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講堂の椅子に座りながら、恒一は周囲を見ていた。
スーツ姿の学生たち。
笑う人。
写真を撮る人。
終わりなのに、どこか始まりの空気。
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「朝倉くん」
隣から声がした。
同じ通信制でよく顔を合わせた学生だった。
「終わったね」
「ああ……終わったな」
そう言いながらも、実感は薄い。
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卒業証書を受け取る。
紙の重さは軽いのに、やけに重く感じた。
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式が終わる。
人が流れ出す。
講堂の外は冬の光で白く見えた。
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そのとき、恒一はスマホを取り出す。
ずっと考えていたことがある。
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恒一:
「今日、卒業だった」
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送信。
少しだけ手が震える。
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既読。
すぐ。
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夏音:
「おめでとうございます」
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その一言が、まっすぐだった。
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恒一:
「お前は?」
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少し間。
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夏音:
「私は、もう少しだけ違う道に行きます」
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その文章で、空気が少し変わる。
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恒一:
「違う道って?」
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既読。
長い沈黙。
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夏音:
「ちゃんと、自分の言葉で生きてみたいと思いました」
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それは説明のようで、決意だった。
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夏音:
「詩も、続けます」
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恒一は画面を見つめる。
胸の奥が少しだけ熱い。
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恒一:
「そっか」
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それだけしか返せなかった。
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そのとき、夏音からもう一通。
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夏音:
「一つだけ、お願いしてもいいですか」
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恒一:
「何?」
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少し間。
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夏音:
「書き続けてください」
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その一文で、胸が詰まる。
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恒一はゆっくり息を吐く。
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恒一:
「それ、お前のセリフだろ」
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送信。
少し間。
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既読。
そして――
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夏音:
「だからです」
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たったそれだけ。
でも、十分だった。
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講堂の外。
冬の空は澄んでいる。
風が少し冷たい。
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恒一は空を見上げる。
終わったはずなのに、何も終わっていない気がする。
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そのとき、ふと思う。
夏音との関係は、恋だったのかもしれない。
でもそれ以上に――
“言葉で繋がった関係”だったのだと。
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スマホをポケットにしまう。
ゆっくり歩き出す。
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それぞれの未来へ。
別々の道へ。
でも完全には離れない距離で。
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恒一は小さく呟いた。
「……俺も、ちゃんと書いていくか」
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その言葉は、風に消えた。
でも確かに、次の人生へ続いていった。




