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## エピソード16 ### 「教育実習」

## エピソード16


### 「教育実習」


 冬の気配が近づく頃、大学の空気は少しだけ張りつめていた。


 恒一にとって、それは“避けて通れない時間”だった。


 教育実習。


 小学校へ行き、実際に子どもたちの前に立つ。


「……俺が、先生をやるのか」


 実習初日の朝。


 ネクタイを締める手が、少しだけ震えていた。


---


 校門をくぐると、子どもたちの声が一気に広がった。


「おはようございます!」


 高い声。

 まっすぐな目。

 止まらない動き。


 恒一は一瞬、立ち止まる。


 圧倒される。


---


 担当の先生に案内され、教室へ入る。


「今日から実習の朝倉先生です」


 その言葉に、胸が少しだけ詰まった。


「朝倉……先生」


 自分の名前が、まだ馴染まない。


---


 授業中。


 黒板の前に立つ。


 手にチョーク。


 後ろには子どもたち。


 視線が一斉に集まる。


---


「えっと……今日は国語をやります」


 声が少し上ずる。


 静か。


 子どもたちは見ている。


 試されているような気がした。


---


 教科書を読む。


 説明する。


 でも途中で詰まる。


「……あれ?」


 頭が真っ白になる瞬間があった。


---


 一人の子どもが小さく笑った。


 悪意ではない。

 ただの自然な反応。


 それでも、恒一の胸には刺さる。


---


(無理かもしれない)


 一瞬、そう思った。


---


 その時だった。


 後ろから小さな声。


「ゆっくりでいいですよ」


 担当の先生だった。


---


 その一言で、少しだけ呼吸が戻る。


「……ありがとうございます」


 もう一度、黒板を見る。


---


 授業が終わった後。


 休み時間。


 子どもたちが寄ってくる。


「先生、どこから来たの?」


「先生、大学生なの?」


「先生、緊張してたでしょ?」


 次々に投げられる言葉。


 正直すぎて、少し笑ってしまう。


---


「バレてた?」


 そう言うと、子どもたちは一斉に笑った。


---


 その瞬間だった。


 ふと気づく。


(あれ……悪くない)


 さっきまでの緊張が、少しだけ溶けている。


---


 放課後。


 校庭を眺めながら、恒一は立っていた。


 夕方の光。


 子どもたちの声。


 風。


---


 そのとき、スマホが震える。


---


夏音:

「実習どうですか?」


---


恒一:

「正直、ボロボロ」


---


夏音:

「でも行ってるんですね」


---


恒一:

「逃げる余裕なかっただけ」


---


 少し間。


---


夏音:

「それでも立ってるの、すごいと思います」


---


 恒一は画面を見つめる。


 その言葉は、やけに静かだった。


---


恒一:

「先生って、向いてるのかな」


---


 既読。


 少し間。


---


夏音:

「向いてるかどうかは、まだ決めなくていいと思います」


---


夏音:

「でも、子どもたちとちゃんと向き合ってましたよ」


---


 その一文で、胸が少しだけ熱くなる。


---


 夕焼けの校庭。


 ブランコが揺れている。


 誰もいない校舎。


---


 恒一は小さく呟いた。


「……まだ、やれるかもな」


---


 その言葉は、誰にも届かない。


 でも確かに、自分の中に残った。


---


 “先生になるかもしれない自分”が、少しだけ現実になり始めていた。


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