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## エピソード14 ### 「あなたの詩に救われました」

## エピソード14


### 「あなたの詩に救われました」


 秋が近づくと、夜が少しだけ早くなる。


 その分だけ、恒一の帰り道も暗くなった。


 施設の仕事を終え、駅へ向かう途中。


 いつものようにスマホが震える。


 SNSの通知。


 もう驚かなくなってきていた。


 最初の頃のような恐怖は薄れている。


 ただ、少しだけ指が迷う。


---


 画面を開く。


 知らないアカウントからのメッセージだった。


---


『突然すみません。詩、読みました』


『すごく短いのに、泣きそうになりました』


---


 恒一は歩くのを止めた。


 駅前の人混みの中で、立ち尽くす。


---


 さらに続き。


---


『最近、仕事がしんどくて、毎日同じことの繰り返しで』


『でも、この詩を見て、なんか少しだけ“ここにいていい”って思えました』


---


 指が止まる。


 息が少しだけ浅くなる。


---


『あなたの詩に救われました』


---


 その一文で、画面が少し遠く見えた。


「……救われた?」


 小さく声が漏れる。


---


 恒一は、すぐに返信できなかった。


 どう返せばいいのか分からない。


 自分はただ、夜勤明けに書いただけだ。


 眠い頭で、適当に打っただけだ。


 それなのに。


---


 駅のベンチに座る。


 人の流れが横を通り過ぎていく。


 世界はいつも通り動いているのに、自分だけ止まっているような感覚。


---


 ようやく返信を打つ。


---


恒一:

「ありがとうございます」

「そう言ってもらえて、少し救われました」


---


 送信。


 すぐに既読。


 でも返信はない。


 それでいい気もした。


---


 その夜。


 夏音にメッセージを送る。


---


恒一:

「見たんだけどさ」


恒一:

「“救われた”って言われた」


---


 数分後。


---


夏音:

「よかったですね」


---


恒一:

「いや、よかったのか分からない」


---


 少し間。


---


夏音:

「どうしてですか?」


---


恒一:

「俺、ただ適当に書いただけだし」

「そんな大したもんじゃない」


---


 送信してから、少し後悔する。


 またいつもの“自分を下げる癖”が出た気がした。


---


 すぐに既読。


 そして――


---


夏音:

「適当でも、誰かには本当になることがあります」


---


 その一文で、止まる。


---


夏音:

「それが言葉だと思います」


---


 恒一は画面を見つめたまま動けなかった。


---


「……言葉、か」


 小さく呟く。


---


 窓の外は静かな夜。


 街の明かりがぼんやりと滲んでいる。


 その中で恒一は初めて、


 自分の書いたものが“誰かの現実に触れてしまった”ことを理解し始めていた。


---


 怖さはまだある。


 でもそれ以上に。


 書き続けたい理由が、少しだけ増えていた。


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