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## エピソード13 ### 「いいね、が怖かった」

## エピソード13


### 「いいね、が怖かった」


 夏が終わる頃、空の色が少しだけ変わった。


 恒一は仕事の休憩中、いつものようにスマホを開いていた。


 最近、また少しだけ詩を書くようになっている。


 短いものばかりだ。


 長くは続かない。

 でも、ゼロではない。


---


 その夜。


 何気なく、初めて“公開”を押した。


 SNSの小さな投稿欄。


 誰かに見せるつもりはなかった。


 ただ、どこかに置いてみたかっただけだった。


---


> 何も書けない日がある

> それでも

> ここにいる


---


 投稿ボタン。


 押した瞬間、少しだけ心臓が跳ねた。


「……何やってんだ俺」


 すぐに後悔が来る。


---


 スマホを伏せる。


 見ないようにする。


 仕事に戻る。


 それなのに、気になる。


 通知が来るたびに、胸がざわつく。


---


 数時間後。


 休憩室。


 ついに見てしまう。


---


 いいね:1

 いいね:3

 いいね:7


---


「……は?」


 思わず声が出た。


---


 知らない人からの反応。


 コメント。


---


『なんか分かる気がします』

『短いのに刺さった』

『いいですね、この感じ』


---


 画面を見つめたまま、動けない。


「……意味わかんねえ」


 嬉しいのか、怖いのか、よくわからない。


---


 そのとき、通知が一つ増える。


---


夏音:

「見ました」


---


 心臓が少し跳ねる。


---


恒一:

「見てたのかよ」


---


夏音:

「はい」


夏音:

「いいと思います」


---


 それだけ。


 でも、その一言がやけに重い。


---


恒一:

「なんか……恥ずかしいんだけど」


---


夏音:

「でも、ちゃんと届いてますよ」


---


 届く。


 その言葉が引っかかる。


---


 夜勤明けの帰り道。


 恒一は電車の窓に映る自分を見ていた。


 変わっていない顔。


 疲れた目。


 それでもどこか、少しだけ違う。


---


 スマホを開く。


 投稿の通知はまだ増えている。


 知らない誰かが読んでいる。


 知らない誰かに届いている。


---


「……怖いな」


 正直な感想だった。


 でもその怖さの中に、少しだけ違うものも混じっていた。


 嬉しさ。

 期待。

 そして――


 可能性。


---


 駅に着く。


 階段を上がる。


 外の朝は明るい。


---


 そのとき、ふと気づく。


 自分はもう、“誰にも届かない言葉”を書いているわけじゃない。


---


 スマホを握る。


 小さく呟く。


「……見られるの、悪くないのかもな」


---


 その言葉は、風に消えた。


 でも確かに、恒一の中で少しだけ形を変えていた。


 “書くこと”が、“誰かに届くこと”へ変わり始めていた。


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