表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/309

105 捕縛

教会に踏み込んだタクミたちの捜索の続きです。

「こいつどうしようか?」


 圭子は気絶しているグラジールの脇腹を蹴りながら処分方法の意見を求める。


「このまま住民に引き渡すのがいいだろうな」


 この男に対する憎しみを最も感じているのは彼らだ。おそらく多くの知り合いや家族がこの男の手に掛かって死んだいるのだから。


「そうね、どうせこの怪我じゃ逃げられないからこのまま放置して先に進みましょう」


 圭子は最後にもう一度その脇腹に強めの一蹴りを入れてから歩き出す。その最後の蹴りで男の口から大量の血が吹き出たが、たとえ内臓のどれかが破裂していたとしても構う事は無い。この男に残された役割は住民の手に掛かって死ぬことだけなのだから。


 同じように床に散乱する教会騎士10人の死体を一瞥して息が無いことを確認してからそのフロアーを後にする。彼らは再び大地の篭手を装着した圭子の一撃によって殆どが即死していた。圭子の攻撃力が上がり過ぎていて、生身の人間ではまともに食らったその一撃が死を招く結果となっていたのだ。


 このようなとんでもない攻撃力を持った上に頭が悪いときているから危険極まりない。周囲がよくよく彼女の監視を怠らないようにしないと、今後恐ろしい結果を招きそうだ。


 再び長い廊下を突き進むタクミたち、また一つドアがあって開いてみるとそこから先は廊下の両側に部屋がある。一つ一つその部屋のドアを開いて中を確認するが、ベッドと簡素な机が置かれただけの居室でその住人の姿は無かった。


 廊下の突き当たりは階段になっており、そこを登って2階に上がってみるが誰も居ない。


「どうやらこの建物自体無人になっているようだな。春名、シロに人の居そうな所を探してもらって欲しい」


 すかさず春名がシロにお願いしてみると『キャン』と一声吠えて任せろという自信たっぷりの顔をしている。鼻をヒクヒクさせて辺りの気配を探りながら進むシロの後ろに付いて一同は一旦建物の外に出る。


 そこは優雅な造りの庭園になっており、バラ園や四季折々の花が咲く花壇などが設けられているほか、休息用のベンチやテーブルが置かれてさながら高位の貴族の屋敷のようになっていた。この豪華な庭園を維持するために多くの住民が犠牲になったかと思うと、なんとも遣る瀬無い思いを感じる。


 そんな庭園を通り過ぎてシロは敷地の奥に向かってドンドン進んでいく。そしてその最も奥の一つの粗末な建物の前で立ち止まった。


「どうやら此処みたいね」


 ようやく目的の場所を突き止めた圭子はにんまりとしている。現在の時刻は午後の3時過ぎで夕暮れにはまだ大分時間が残っている。


 お約束の一蹴りでそのドアを突き破る圭子に続いてタクミが素早く室内に入り込む。だがそこは納屋のような場所で庭園の剪定などを行う道具が置いてあるだけだ。


「シロの鼻が人の気配を間違うはずは無いから、どこかに隠し通路があるという事だな」


 部屋をくまなく探す一同だが不審な箇所を発見出来ない。


「あのー・・・・・・何かおかしいです。この建物の外見から感じた奥行きと、内部の広さが違うような気がします」


 春名が中に入った瞬間に感じたおかしな点を口にする。全員が一旦外に出てその奥行きを調べて、再び内部の奥行きと比較すると、明らかに1メートル以上の差がある。


 圭子が奥の壁を叩いてみると『コンコン』と乾いた音がした。


「どうやらこの奥に何かあるみたいね」

 

 そう言うなり彼女は木の壁に向かって拳の一撃を叩きつける。するとそこにはポッカリと空洞が開いていた。さらにその穴を広げて顔を突っ込んで内部の様子を確認すると、壁の奥に狭い通路が隠されておりその先には地下へと続く階段が存在する。


「シロ! ビンゴよ!」


 シロはお褒めの言葉をもらって尻尾を振って応える。さらに岬の方を見てご褒美のおやつをおねだりする。こういうところは大変にしっかりしている。シロの活躍にあやかってファフニールまでおやつのご相伴に預かっていたのはご愛嬌だ。


 タクミがナイフで壁に切込みを入れて軽く蹴飛ばすと、人が楽に通れるだけの臨時の通路がそこに出来上がった。


「行くわよ!」


 圭子を先頭に階段を下りていくと薄暗い10メートル四方の地下室に約15人の人間が固まって嵐が過ぎるのを待っている様子だった。


 当然この教会の関係者と審問の館を抜け出してきた審問官たちだ。そのうちの4人は普通の服を着ているところを見ると教会に雇われていた下男と下女のようだ。


 彼らは住民たちの教会に対する抗議行動を見て騎士たちに対応させて何とか遣り過ごそうとこの場に隠れていたのだ。もしタクミたちが居なかったら住民たちは蹴散らされていたかもしれないが、今回に限っては彼らは運が無かった。その運ももうお終いではあるが・・・・・・


「どうやらお前たちが魔女狩りを仕切っていた犯人だな」


 タクミが威圧感全開で詰問する。そこに居る男たちは最も奥の椅子に座っているでっぷりとした大司教と5人の司教や見習いの修道士に5人の審問官だった。


「どうか見逃してくれ。金なら好きなだけ払う!」


 手を組んで哀願する大司教、彼らには抵抗する力も気力も元から無かった。神の威光をかさにして弱い者から奪うだけの卑怯者の集まりに過ぎない。審問官たちも先程の男を除くと皆抵抗出来ない者に対しては残虐になれるが、本当の強者の前で反抗する勇気を持つ者は一人も居なかった。


「それは俺たちに言うべきではないな。今から引き出される住民たちの前で頑張って命乞いをしてみろ。もっともお前たちに残された権利はその命を差し出して死んで詫びる権利くらいだろうがな」


 タクミの言葉にその場に居る全員が真っ青になって震えだす。今まで散々他人を絶望の果てに死に突き落としていたにも拘らず、いざ自分の番が来たとなると命乞いをするとはずいぶん都合の良い話だ。


「頼む、助けてくれたら総本山に眠る財宝の話を教える。だから助けてくれ!」


 必死になって頼み込む大司教、今此処でタクミたちを説得出来ないと全てが終わってしまうと分かっているようだ。


「そうか、一応考えてやるから全部吐け!」


 タクミはちょっと考えた振りをしてから話の続きを促す。大司教の言葉にあった財宝というフレーズに引っかかるものがあったのだ。


「私は総本山の中枢に長く居たから知っているのだ。総本山の地下にはこの世界を手に入れられる財宝が隠されている。何千年も封印されていて知っている者はホンの一握りだ。だが絶対に財宝は存在する!」


 大司教はこれで助かるという安堵の表情をしている。タクミからすれば御めでたい限りだ。


「そうか、話はそれで全てならば住民たちの前に出てもらおうか」


「なぜだ! 財宝の事は全て話したはずだ!」


 タクミの死刑判決に抗議する大司教、周囲の者たちはその話のやり取りに微かな期待すら消え去って諦めた様な表情をしている。


「考えてやるとは言ったが、助けてやるとは言っていない。考えた結果お前の提案は却下だ」


 タクミの底意地の悪い判決に涙を流して訳の分からない事を喚き出す大司教、だがそんな事を一々採り上げるのは時間の無駄だ。


「お前たちに忠告しておく。痛い目に遭いたくなければ素直に従え!」


 タクミは見せしめに未だに喚いている大司教に近づいてその脂肪で覆われた腹に一蹴り入れた。


「ぐえーー!」


 目を剥いて椅子から転がり落ちる大司教、威厳も無いもあったものではない。その様子を目撃した者は黙ってタクミに従うしかない事を理解した。その目は恐怖に怯えて体は微かに震えている。


「それでは付いて来い。逃げ出そうとしたやつは遠慮なく魔法で殺すからそのつもりでいろよ」


 タクミの警告に項垂れながら指示に従う教会関係者たちだった。


読んでいただきありがとうございました。アイゼルの街のお話が結構長引きましたが、次回は新たな街に向かって出発します。感想、評価、ブックマークお待ちしています。次回の投稿は日曜日の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ