106 闇の襲撃
お待たせいたしました。ようやくアイゼルの街を発つ一行のお話です。そこにはなにやら暗雲が立ち込めていそうな・・・・・・
「それで、あの後はどうなったんだ?」
現在タクミたちは冒険者ギルドにやって来ている。ギルドマスターと話をしているのはタクミ一人で、女子たちは飲食コーナーでのんびりとお茶を飲みながら話に興じている。面倒な事は全てタクミに丸投げの彼女たちだ。
「教会の連中は下男たちを除いて全員が木に吊るされたよ。これでようやくこの街に平穏が戻った。君たちのおかげだ、感謝する」
ギルドマスターは腫れぼったい目をして頭を下げる。実は彼も姪を一人魔女狩りの犠牲にしていた。まだ14歳の身でありながら、審問官たちの手に掛かって無残な最期を遂げていたのだ。彼は昨夜無念の最後を遂げた彼女のために泣き明かした。たとえようやく無実が証明されたとしても、彼女はもう戻ってはこないのだった。
「そうか、国王側は何か動きはあるか?」
「ようやく重たい腰を上げたようだ。他の街でも国王方の騎士による教会の取締りが始まるようだ」
長らく教会の無法に対して業を煮やしていた国王方もアイゼルで起こった今回の出来事を切っ掛けにして教会に対して宣戦布告をする決意を固めていた。
これまでは国内が内戦さながらになる事を恐れて手を拱いていたのだが、この街の出来事はやがて国中に広まっていく。そうなれば今度は国民の非難の矛先が国王に向かう可能性もある。もうすでに遅きに失している感はあるのだが、それでも何もしないよりはましだ。
その上、どうやら隣の街でも住民たちが決起して教会を包囲している話が伝わってきているそうだ。タクミは自分たちが仕出かした事ながらその反響の大きさにちょっと遣り過ぎたかもという危惧を抱いている。
「部外者が差し出がましいことをしてすまなかったと一応反省はしている」
「馬鹿を言うんじゃない! 君たちはアイゼルの英雄だぞ! 君たちが居なければ我々はまだあの惨たらしい悲劇を見過ごしながら生きていかなければならなかったのだ。誰であれ間違いを正してくれた事に感謝をするに決まっているだろう」
タクミが珍しく頭を下げた事に対して、滅相も無いと反論するギルドマスター。彼の意見はこの街の住民に共通のものだった。
「そう言ってもらえたらこちらも少しは遣った甲斐がある。話は変わるが、教会の総本山は何処にあるか教えてくれ」
タクミの言葉にギルドマスターはギョッとなった。まさか総本山まで押しかけて潰すつもりではないかと完全に思い違いをしている。
もちろんタクミの考えは総本山に押し掛けるところまでは合っている。だが彼の目的はあの捕まえた大司教が言っていたその地下にあるという財宝の事だった。おそらくはPMIシステムに関係している物が隠されているのだろうと見当をつけていた。
「止めはしないが本当に行くつもりか?」
どうせまた何か仕出かすのだろうという危惧を抱きつつも、地図を広げて説明を始める。
「ここが国境のこの街だ。そして中心の王都を通り過ぎた更に北西にあるのが、総本山のあるガルデレンの街だ」
地図によるとほぼ正方形のこの国の中心に王都が在って、その対角線の向こうの海沿いにガルデレンの街がある。
「この地図によると王都を抜けていくのが最も近道のようだな」
「その通りだ。街道も整備されているから旅はし易いだろう」
タクミの言葉を肯定するようにギルドマスターは頷く。魔女狩りの嵐さえなければ旅にそれほどの困難は無さそうだった。
場所は変わってここはガルデレンの街にある大聖堂の奥まった一室、独自の情報網によってアイゼルの街で起きた教会に対する反逆は瞬く間に伝わっていた。
「これは由々しき事態ですぞ」
「誠にもって困った事になった。どう対処すべきだろうか?」
教会の中枢部を統べる二人の枢機卿が額を寄せて相談をしている。アイゼルで起こった事を放っておくのはこれまでやって来た悪事が全て白日の元に晒される結果に繋がりかねない。その対策を真剣に話し合っている最中だ。
「まずは国王側についてだが、これは子飼いの貴族たちの力で何とか抑え込めるであろう。反逆を起こした街については本山の衛兵を2000人程派遣して押さえ込むという事で良いと思う」
「なるほど! 本山の衛兵といえば王国軍を上回る最精鋭ですからな、見せしめに街のひとつでも滅ぼしてやれば住民たちも大人しくなるでしょうな」
ニヤニヤとした嫌な笑いを浮かべて自らの立案した策に上機嫌の二人、これで今まで通りに民から絞り上げる事が出来ると高を括っている。
「それはそうとして、報告にあった例の冒険者をどうするかですな。これ程の神に対する反逆行為を見過ごす事は出来ないでしょう」
「あの連中を動かすのは如何かな?」
「ほう、あの者たちですか! それならば確実ににっくき奴らに神罰が下ることでしょうな」
彼らのいうあの連中とは教会の裏の仕事を一手に引き受けてきた闇の中の闇と言われる暗殺部隊の事だった。過去には王族すらもその手にかけてきた恐るべき暗殺集団がタクミたちに差し向けられる事がこの場で決定されるのだった。
「さあ、出発よ!」
自分たちの知らないところで様々な陰謀が繰り広げられているとは気づく筈も無い一行は、アイゼルの街を発とうとしている。ギルドの前にはその恩人を見送ろうと多くの住民が集まっている。
「またこの街に寄ってください」
「今度はもっとゆっくりしていってくれ! 精一杯歓迎するから!」
温かい言葉が周囲から掛けられ、その中を馬車は動き出す。あれから街は久しぶりの平穏を取り戻して、住民たちの表情は穏やかだった。
「短い滞在でしたが色々ありましたね」
馬車に中で春名が見送りの住民に手を振りながら感想をこぼす。
「助けられなかった命があったのは残念」
空はまだ亡くなった娘の事を引き摺っていた。時空を旅する者にとっては、時には冷酷に命を見捨てなければならない宿命を背負っているのだが中々簡単に割り切れないようだ。だからこそ運命の神様は空の事を聖女に選んだのかもしれない。人一倍人間のあり方や生き方について真剣に考える彼女こそが、与えられた聖女の役割を最も理解して実践しているのだろう。たとえガチムチ好きの腐女子だろうと・・・・・・
次の街までは2日の予定で、馬車は街道を順調に走っている。この日も夕暮れが間近に迫っていてそろそろ野営地を見つけようかという時刻に差し掛かかった時、圭子の直感に何かが触れた。
「みんな気を付けて! 来るよ!」
馬車は急停止して馬は踏鞴を踏む。そこは両側を森が覆い、待ち伏せするには格好の場所だった。
「美智香は中で様子を見ていろ、合図があったら出て来い!」
タクミは短い指示を告げて馬車の外に飛び出していく。圭子はまだ御者席に座ったままで気配を伺っている。
「この国で俺たちを襲う理由があるのは盗賊か教会の手の者だろうな」
「まあ他に考えられないわね」
馬が落ち着いている事を確認して圭子は手綱を木に括り付けて迎え撃つ準備は万端だ。
「避けろ!」
タクミの言葉と同時に二人は左右に大きく跳ぶ。彼らが立っていた所を何かが通過したような気配がしたと思ったら、後ろの木の幹に黒く塗られた矢が5本刺さっていた。
「どうやら盗賊の線は無いな」
その手口から見てただの物取りでは無いと判断したタクミは用心のため圭子も馬車に押し込んでパワードスーツを展開する。赤外線で熱源を探知すると右側に6人、左側に5人の人影を発見した。
彼は無言でブラスターガンを発射して右から順に片付けていく。木の陰に隠れようとも木の幹ごと爆発するのでその場に隠れていた者は一溜りも無い。簡単に掃討は終わるが、左側に更にもう一人隠れていた。
その影はタクミに向かって魔法を放つが、あっさりと弾かれる。逃げ出そうとするその影を追いかけて捕まえるとタクミの手が捉えた瞬間にそれは力なく動きを止めた。
その姿を確認するとまだ若い女で口から血を流してすでに死んでいる。どうやら自ら仕込んでいた毒で捕まる前に命を絶ったようだった。
手掛かりが無いままにその女の死体を抱えて馬車に戻るタクミ、彼の姿を確認して圭子が中から出てくる。
「どうやら暗殺者みたいね」
その死体の所持品などを確認して圭子は結論を出した。
「教会の連中も俺たちに本気で戦争を仕掛けてくるつもりらしいな。圭子、どうする?」
タクミはどんな返事が返ってくるかすでに分かってはいたが敢えて聞いてみた。
「もちろん受けて立つわよ!」
予想通りに何を今更という表情で力強く言い切る圭子だった。
読んでいただきありがとうございました。次回は多分この国の王都での話しになりそうです。ブックマークありがとうございました。引き続き、感想、評価、ブックマークお待ちしています。次の投稿は火曜日の予定です。




