107 王都リンベーグ
タクミたちは何とか王都まで辿り着きました。此処ではどんな事が待ち受けているやら・・・・・・
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タクミたちはアルストラ王国の王都リンベークに到着した。ここに来る間にも野営中に一度、途中のヴォールトの街の宿で一度、暗殺者の襲撃を受けたがいずれも無事に撃退していた。
「王都ならば国王の権力が強くて教会も思うように活動できないんじゃないの」
「いやそうとも限らない。対立する相手の本拠地には多くのスパイが紛れ込んでいるのが当たり前だ。潜伏している教会の手の者がどう動くかわからない」
圭子はこと格闘に関しては経験が豊富だが、諜報や謀略に関しては素人も同然だ。何事も正面ぶちのめすのが彼女の信条だから仕方がない。だが自分では気が付かなかったタクミの指摘になるほどと頷いて気を引き締めている。
「確かにタクミの言う通りだけど、表立って魔女狩りが行われている様子は無さそう」
美智香は通りの様子や歩く人々の表情などを観察してそう判断を下す。彼女の言葉通り人々の表情からは今まで見てきた街の人々とは違って不安に怯える様子は見られなかった。言ってみれば他の国と同様に普通に暮らしている人々といった感じだ。
「でもその分、王都の人たちは魔女狩りに対する危機感が薄い可能性がある。それと同時に教会に対する他の街の住民の不満が限界に達している事にも気が付いていないかもしれない」
美智香の分析は的確だった。今まで20年間ほとんど被害者を出してこなかった王都と、多くの住民が魔女狩りの犠牲になった地方の街では教会に対する態度に大きな温度差が生じており、それが国内情勢の大きな不安要因となっていた。
「王様はどう考えているのでしょうか?」
春名の疑問はもっともだ。最高権力者の国王が教会に対してどのような態度を取るかで、おそらくこの国の今後の運命は大きく変わっていく。
アイゼルの街では住民たちが決起して教会に反乱を起こしたが、ここまで通ってきた他の街では治安を守る側の騎士たちの態度は両極端だった。アイゼル周辺では住民に加担して教会を取り締まり始めた街がいくつかあったが、王都が近付くにつれて住民の騒乱を取り締まり教会に加担する騎士団もあった。
もっともそれらの街でタクミたちに直接敵対して武器を向けてきた者たちは悉く教会ごと殲滅されて、住民たちは魔女狩りの悪夢から解放されている。
このように街によって対応に一貫性がない現状はそこを治める領主や地方官の判断次第という訳で、中央政府がどう対応するかがまだ決まっていない証拠だった。
「このままでは街の様子が分からないから取り敢えずギルドに行ってみるか」
タクミの言葉で馬車は人通りの多い道を右に折れてギルドに向かう。
「ようこそ冒険者ギルドリンベーク支部へ」
受付嬢の明るい言葉がカウンターの前に並んだタクミを出迎える。王都だけあって他の街よりも冒険者は多いが、それでもちらほらといった数しか見当たらない。やはり多くの冒険者はリスクを回避してこの国には寄り付かないようだった。
「この街の情報が欲しい」
タクミが差し出したギルドカードを受け取って記載された内容を確認する受付嬢の表情が急に変わる。
「少々お待ちください」
階段を駆け上がる彼女の姿を見送りながら、タクミはいつもの事だと思ってその場で待っていた。Aランクのカードを見た受付嬢は例外無く同じ反応をする。
やがて階段を駆け下りてきた彼女は息を切らしてタクミに伝える。
「ギルドマスターがお会いになります。2階にどうぞ」
いつものようにタクミが一人で階段を登っていく。当然の事ながら女子たちは飲食コーナーで会話の花を咲かせて、全くタクミの事を省みようとはしない。薄情と言われようが面倒な事はタクミに丸投げが彼女たちの基本方針だった。
「わざわざすまないね。私がこの街のギルドマスターのベルグリッシュだ。君たちはAランクパーティーのエイリアンで間違いないかね?」
「ああ、間違いない」
勧められたソファーに腰を下ろして話が始まる。
「君たちがアイゼルの街で教会の審問官の嘘を暴いた事はすでに話として伝わっている。実はこの件に関して国王陛下が君たちから話しを聞きたいとおっしゃっていられる。どうだろうこれから城に同行してもらえないだろうか」
ベルグリッシュはいきなり重大な用件を切り出す。彼は王宮から直々に、もしタクミたちが姿を見せたらすぐに城まで連れて来て欲しいと依頼されていたのだった。
「この街に着いたばかりだから今日は無理だな」
タクミは国王の意向を知るいい機会だと考えているが、女子たちはやれ準備だの着替えだのと色々あるだろうから答えを一旦保留する。
「では明日ならば構わないか?」
ギルドマスターは余程急かされていたのだろう。今日がダメなら明日はどうだと畳み掛けてくる。
「明日なら大丈夫だ。ところでこの街は現状はどうなっているんだ?」
タクミは彼の依頼を了承するとともに、この街に関する必要な情報を得ようとする。それによるとおよそ美智香が分析した通りの答えが返ってきた。彼女の観察力に舌を巻くタクミ。
「というわけでこの街だけは教会も遠慮して大っぴらに魔女狩りは行っていない。その分治安は保たれているが、他の街がどのようになっているかという事に住民はあまり関心がないんだよ」
ベルグリッシュはやや諦めたような表情で答える。魔女狩りの影響は地方の人々の暮らしだけではなくこの国の経済に暗い影を落としており、その影響が波及している王都でも長期に渡る不景気が続いているらしい。
だが、王都に住む人間にとっては恐ろしい魔女狩りは遠い世界の他人事のような感覚で、その日の暮らしをどうするかの関心しかないそうだ。生きていくためとはいえ、ずいぶん薄情な事だとタクミはやや残念に感じる。
ギルドマスターの部屋を出て女子たちと合流してから彼が勧めた宿に向かう一行。この街で一番の高級な宿で設備や安全が高いレベルで保たれているとの事だった。例の暗殺団の件もあって安全な所の方がいいだろうと判断し、2部屋を取って旅の疲れを休めるタクミたち。
「ということで明日城に向かう事になった」
「まあ、早速お招きですか。何を着ていきましょうか? 迷ってしまいます!」
春名は再び城に行くと聞いてお花畑全開になっている。それにしても彼らは行く先々でよく王宮に招かれるものだ。
「やっぱり例の件を聞かれるわよね」
圭子は話の行き先によっては一戦交えるのも上等と物騒な事を考えている。
「圭子、いきなりケンカ腰で行くわけじゃないぞ。話を聞きたいと言われているだけだからな」
「そんなのどう転ぶか分からないでしょう!」
実はタクミも頭の片隅では圭子と同様の事を考えていた。そうそうこちらの思惑通りに事が運ぶなど見通しが甘過ぎる。殊に特殊な状況に置かれているこの国では常に最悪の状況に備える必要もあった。したがって圭子の言葉はパーティー全員に注意を喚起する良い契機となった。
「出来れば魔女狩りで苦しんでいる人たちを救う方向で」
空は性格的に問題はあってもその性根は心優しい人間だ。彼女はあの犠牲になった娘のためにもこれ以上の被害が出る事を何とかくい止めたかった。彼女自身がこの問題の解決に乗り出せばそれこそ一瞬で終わってしまうのだが、未来人の宿命で歴史の大きな改竄に繋がる行為は禁則事項に抵触する。彼女は手出し出来ない歯痒い思いを感じながらも、その解決をタクミたちに委ねるしかなかった。
「なるべくそう出来ればいいがあくまでも俺たちは部外者だ。自分たちの安全を最優先に考えるし、目的に叶った行動しか出来ない。ただいずれは教会の総本山に向かうから、その時に全ての決着を付けられるだろう」
タクミも建前上は部外者であるという点を強調しつつ、本音では総本山を叩き潰す方針を自分の中で決定している。
「それもそうね。どの道明日になれば国王の考えが分かるから、それからどうするか決めましょう」
圭子の言葉に全員が頷いて翌日に備えて休む一同だったが、空が嬉しそうにタクミの腕にジャレ付きながら別の部屋に向かう。彼の回答に満足していると同時に、今日のくじ引きの勝者は彼女で、一晩タクミと明かす権利を獲得していた。
今日こそタクミの手によって大人への階段を昇ってやるという強い決意を胸に秘める空。そして、その様子を羨ましそうに見送る女子たちだった。
読んでいただきありがとうございました。次回は国王に招かれてタクミたちは城に向かう筈でしたが、とんでもない方向に話が脱線しそうです。一体どのような遣り取りになるか・・・・・・
次の投稿は金曜日の予定になります。




