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第2話 ストーリー開始


 この世界に来てから早くも一週間がたった。

 今日はストーリー(物語)が始まる、スピカ学院の入学式だ。

 入学するのは公爵家の血を継いでいるアリスなのだが、ルナである私も護衛として入学する手筈となっている。

 そして私の推しカプであるルナとカリスの最初の邂逅である。

 前までの私であれば、「うおぉ!推しカプの初邂逅だ!ぐへへ」とか言っていたのだが、推しカプの片割れ(ルナ)は現在(いま)の私なので、どうにかメリバエンドを避けようと必死に悩んでいるのである。  

 

 それにしても馬車は揺れが酷い。

 私達の従者であるエステはもう乗り物酔いしている。

 仕方ない、魔法を使うか。

 

 『ステイブル』


 これはルナの記憶にある古代エルフ魔法だ。

 ルナは孤児になる以前、ハーフエルフではあるものの、エルフ族の貴族だった。

 その際に学んだことが私の記憶と融合しているのだ。


 恐らく、ルナは私の中に眠っている。 

 ただ意識がないわけではないらしく、文葉としての記憶を見て楽しんでいるようであった。

 ルナが楽しそうで何よりだ。


 馬車が魔法によって安定してきたころ、ようやく王都が見えてきた。

 フォンテーヌ公爵家から王都まで約半日かかるのだが、今日は珍しく四時間弱で到着した。

 これもアリスの主人公補正なのだろうか。


 スピカ学院の学生寮に入るためには複雑な手続きが必要であった。

 まず、後見人である義父様のサインと血印を貰い、役所に届ける。

 その後、学院の使者が屋敷に訪れ、義父様を交えて契約をする。

 最後に入学式の後、学生寮にて学院の生徒となるものは再度、契約をする。

 このようにかなり面倒なのである。

 

 そんなことを考えているうちに学院に着いてしまった。

 馬車から降りて、考え事の続きをしながら校舎へと向かう。


 「確か小説ではアリスが入学式前に迷子になるところから始まるのよね⋯ってアリスがいない!?」


 ついさっきまで、隣を歩いていたはずなのに。

 入学式までそれほど時間はないし、小説の通りにいかなかったときのために探しにいかなければ。


 探しはじめて10分、それほど遠くに行っていないはずだと校舎の周りを探したものの一向に見つからない。なので校舎の中に入って探すことにした。

 

 「アリスー?アリスー!どこにいるのー?」


 早足で校舎の廊下を歩く。

 すると、中庭からアリスらしき人物が誰かと喋っている声が聞こえてきた。


 「あの、どこが入学式会場か教えてくださいませんか?」

 「入学式会場か?ならそこの角を曲がって真っ直ぐ進むとつくぞ」

 「ありがとうございます!」

 

 どうやら私はアリスとユーリの初邂逅に遭遇してしまったらしい。

 邪魔をしてはいけないので咄嗟に木の裏に隠れる。

 決して盗聴しているわけではない。


 「新入生か?」

 「はい。義姉(あね)と逸れてしまいまして」

 「義姉(あね)?姉なのに同じ年に入学するのか?」

 「ええ。『あね』と言いましても血は繋がっておらず、15歳と同い年ですから」

 「なるほど。そういう事情があるのだな」

 「そうなのです。貴方様にはなんでも話してしまいそうですわ」

 「嬉しいな。それなら、これからは悩み事があればここに話にくるといい」

 「よろしいのですか?」

 「ああ。君に興味が湧いたからな」

 「ありがとうございます。ではそろそろ時間もないので失礼いたします」

 「こちらこそ楽しい時間をありがとう」


 そうして2人の初邂逅は無事終わった。

 ずっと好きだった小説の重要なシーンに立ち会えたことに感動していると、ユーリがこの場から立ち去った。

 それで私もそろそろ時間だということに気がつき、入学式会場に向かったところだった。

 

 「貴(・)女(・)も(・)覗き見ですか?」


 そんな言葉が私の頭上から降ってきた。


 「へ?」


 間抜けな返事とともに上を向くと、物語上で今ここにいるはずのない顔があった。

 

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