第2話:魔法
神経の切断は自分自身に施された。
全身麻酔なし。動脈を避け、切開し、自己調整による神経分離。
触覚、聴覚、嗅覚、味覚……すべてを遮断し、彼は“視覚”だけを残した。
そして、モニターに映された自らの身体を最後に、彼はこう呟いた。
「……俺の魂が、視えている……」
直後、心拍停止。脳波消失。
その死は、誰にも知られず、記録にも残らなかった。
ただ一つ残された映像に、何者かが彼の身体を**上から見下ろしている“視点”**が映っていたことを除いて。
視界は歪み、空は赤く、空気は重い。
肉体は小さく、骨は未発達。
肺は未熟で、声帯も震えない。だが、意識は確かだった。
「ばぶぶばぁ、ぶぅ(これは……新生児……? もしや、転生……)」
彼は再び生まれていた。
完全な“赤子”として、未知の世界に。
言語、構造、光の波長。すべてが地球とは異なる。
俺は歓喜した。
何故ならば転生というものが存在するという事は魂の証明だ。俺の脳はロストしたのにも関わらず俺には記憶が残っている。つまり、魂の記憶。
この仮説が実証されてしまったということは永遠の命も夢ではない。真理を追求するものとしてこれほど歓喜する事はない。
「あらあら、はしゃいじゃって可愛い」
「きっとこの世界に生まれた祝福を喜んでいるんだろう」
視力がわずかしかない為よく確認は出来ないが俺の今世の母と父が俺を見て微笑ましく思っている様だった。
そんな事はどうだっていい俺は今幸せの絶頂なのだ。
魂の有無を実証した、俺にとってこの世界はまるで天国だ。
「旦那様、申し訳ございません。魔法で火を出して頂けませんか?火の魔石がもう心許なくこのままですと明日まで持ちません、」
「ふむ、そうだな。今宵は凍えるような寒さだ。よし、私が使用人達皆の為に火を与えよう。ファイア!!」
その瞬間、俺の父であろう男の身体が輝き彼の内側の何かが全身に行き渡り暖かい炎を手から出した。
「こら!エヴァンス!マーリンの近くで炎を使わないで!危ないでしょ!!」
「あ、す、すまない。シャーレイ」
もしや、アレが魔法なのか?あの光り輝くナニカ。
俺の中にもある。いや、感じようと思えば一人1個ナニカがある事がわかった。
実に面白い。俺には何故か確証があった、このナニカを研究し尽くせば更に魂の事、いや、真理を知る事が出来ると
感じたのだ。
ああ、調べ尽くしたい、、だがこの身体はどうやら直ぐに眠くなってしまう…。
俺は微睡みに身を委ねながらこれから先の未来を考え歓喜するのであった。




