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第33話 そして

 どれくらいの距離を飛ばされただろう。

 季節に反した汗の量、呼吸が荒々しくなる。全力疾走――僕の向かう場所は一つ。


 ざわざわと、人集りができている。瞬時に、その原因が夕凪と夜凪によるものだとすぐに理解した。


 人集りをかき分け、中心部へと行く。


 ここにたどり着くまでに――もしかして、夕凪が勝っているのではないか? なんてことを少しは想像したりもしていた。


 ……そんな淡い期待は一瞬で砕かれる。


 およそ、十五分位ではあった。が、目の前に広がる光景を形作るには、十分すぎる時間だった。

 ピクリとも動かず、地面に横たわる夕凪。それを見下ろす夜凪――、


「ちっ。手間かけさせやがって」


 ――一目瞭然、勝者と敗者。


「夕凪、夕凪っ!」


「お、戻って来やがったか」


 この、野郎――、


「なんだその目は? 文句があるならかかって来いよ。元々、用事があったのはてめえの方だからな」


 ――怒りに体が震えても、僕の足は動かない。


「来ねえなら、こっちから行くぜ」


 右肩がうずき出す。

 むしろ、これが普通の反応――一言でいえば、恐怖なんだ。これだけ周りに人がいるにも関わらず、誰一人として助けてくれる人はいない。誰だって丸腰でライオンに立ち向かえ、と言われて立ち向かう人なんていないだろう。

 だけど、友達、クラスメイト、自分に親しい人であったなら――はたして、見て見ぬふりなんてできるのか? 


……今はそういうことなんだ。


 僕にとって夕凪はクラスメイトであり、高校生活で初めて友達と言ってくれた人だ。時には、恐怖を乗り越えなくてはいけない時がある。


「……はっ、冗談だ」


 夜凪が夕凪を抱き起こし、歩き出す。


「今日はもういい。こいつも連れ帰らなきゃならねえしな。……せっかくだ、本番まで取っといてやるよ」


 僕の思いは、ただ一つ。

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