第八話 消えた魂
孤児院に、静けさが戻っていた。
生き残った子どもたちは、救援に来た者たちによって保護された。
泣き疲れて眠ってしまった子もいた。
何度もシスターを呼ぶ子もいた。
けれど、もう返事はなかった。
廊下では、一人の人物が悠太の亡骸を抱いていた。
別の人影が、静かに近づいてくる。
「…………」
倒れた少年を見て、その足が止まった。
「……そんな……」
小さく声が漏れた。
膝をつき、悠太の頬にそっと触れる。
「…………」
二人は、しばらく何も言わなかった。
やがて、片方が口を開いた。
「……魂はもう…」
「……え?」
「手遅れだった…」
沈黙が落ちた。
そこに残されていたのは、動かなくなった肉体だけだった。
* * *
同じ頃。
遠く離れた安倍家。
屋敷の奥深くでは、多くの術師たちが集められていた。
中央には、大きな術式が描かれている。
その周囲に並ぶ者たちは、誰も口を開かなかった。
「……準備は整ったか」
一人の男が尋ねた。
「はい」
「器の状態は」
「……これ以上は、もちません」
男は目を閉じた。
「…………」
やがて、静かに命じた。
「始めろ」
術師たちが、一斉に術式へ霊力を流し込む。
巨大な紋様が、ゆっくりと光り始めた。
本来、触れてはならない領域。
死者の魂に干渉する、禁じられた術。
術式の周囲で、空気が震え始める。
そして――。
さまよっていた魂たちが、次々と引き寄せられていく。
一つではない。
二つでもない。
術の届く範囲に残されていた魂が、次々と集められていった。
その中に――。
一人の少年の魂があった。
* * *
暗闇。
何も見えない。
何も聞こえない。
そこに、悠太の意識だけが漂っていた。
(…………)
自分がどこにいるのか、分からなかった。
何が起きたのかも、思い出せない。
ただ、最後に見たものだけが、かすかに残っていた。
歪んだ顔。
落ちていくバット。
遠ざかる音。
そして。
(……シスター……)
その瞬間。
暗闇の向こうから、何かが引き寄せてくる。
抗うこともできなかった。
悠太の魂は、その力に呑み込まれていく。
遠くで、誰かの声がした。
「――廻生」
眩しい光が広がった。
そして。
悠太の意識は、再び途切れた。




