第三十話 格の違い
悠太が目を見開いた。
「……え?」
何が起きたのか、分からなかった。
目の前に、一人の人物が立っていた。
いつ現れたのか。
誰も気づかなかった。
「…………」
その人物は、吹き飛んだ妖怪を眺めていた。
「……あれ。結構硬いね」
ひどく気の抜けた声だった。
六人の上級術師。
その中で、最も若い術師。
最年少の上級術師が、そこに立っていた。
* * *
「…………」
悠太は呆然と、その背中を見つめていた。
そして、ゆっくりと妖怪が吹き飛んだ方向へ目を向ける。
地面には、大きく抉れた跡が残っていた。
「…………」
上級術師は、吹き飛ばした妖怪から視線を外した。
そして、悠太を見る。
血まみれの顔。
傷だらけの身体。
立っているのもやっとの状態だった。
「…………」
上級術師が、少し顔をしかめる。
「……うわ、痛そ……」
「…………」
悠太は、ぽかんとその人物を見つめていた。
最年少の上級術師が、悠太の顔を覗き込んだ。
「……大丈夫?」
「…………」
悠太はぽかんと口を開けていた。
「……え、あ……」
その時――
背後で、妖怪が立ち上がった。
「…………」
にたり。
次の瞬間。
――ダンッ!!
地面を蹴り、一気に距離を詰める。
振り上げられた拳が、上級術師の背中へ迫った。
「――っ!!」
悠太が目を見開く。
しかし――
――キィンッ!!
――ドゴォンッ!!
拳が、透明な壁に激突した。
「…………!?」
妖怪の動きが止まる。
いつの間にか、上級術師の背後に結界が張られていた。
「…………」
上級術師は振り返らなかった。
ただ、悠太の顔を眺めている。
「……それにしてもさー」
――ドンッ!!
妖怪が再び結界を殴る。
「今回って、調査任務だよね?」
――ドゴンッ!!
また一撃。
「何かあったら撤退って言われてるよねー?」
「……っ、あ……」
悠太が何かを答えようとする。
しかし、うまく声が出ない。
――ドガァンッ!!
妖怪が結界を蹴りつけた。
それでも、結界はびくともしない。
「……でさー」
上級術師が首を傾げた。
「なんでこんなことになってるのー?」
「…………」
悠太は目の前の人物を見つめた。
その背後では、妖怪が何度も拳を叩きつけている。
――ドンッ!!
――ドガンッ!!
――ガァンッ!!
あれほど簡単に砕かれていた結界。
悠太が最後の霊力を振り絞って何重にも張った結界。
それらをことごとく破壊してきた妖怪が、今はたった一枚の結界すら壊せずにいた。
「……っ、はぁ……!」
悠太は息を整えようとする。
「……いや……その……」
「んー?」
「……えっと……」
――ドゴォンッ!!
「……っ!」
悠太の肩がびくりと跳ねた。
だが、上級術師はまったく気にしていない。
「…………」
しばらく悠太を見つめていたが、やがて小さく頷いた。
「……まぁ、いいかー」
「…………え?」
「とりあえず、今はそれどころじゃなさそうだし」
――ドガァァンッ!!
妖怪が両腕を振り下ろした。
凄まじい衝撃音が響く。
しかし――
結界には、傷一つついていなかった。
「…………」
上級術師がようやく背後を振り返る。
「……あー」
結界の向こうでは、妖怪が口を大きく開き、けたけたと笑い続けていた。
「…………」
上級術師は、その姿を眺めた。
そして、少し困ったように笑う。
「……話してる途中なんだけどなー」
悠太は目の前の上級術師を見つめた。
ついさっきまで、死ぬかと思っていた。
いや、間違いなく死ぬ寸前だった。
それなのに、この人は。
背後で妖怪が暴れているというのに、まるで世間話でもしているかのようだった。
「…………」
張りつめていた緊張が、ぷつんと切れた。
全身から力が抜ける。
――どさっ。
悠太はその場に尻餅をついた。
「誠人様!?」
分家たちが慌てて声を上げた。
「……えぇ……」
悠太は座り込んだまま、上級術師を見上げる。
「……なにもんや……」
「んー? 何か言ったー?」
「……いや…」
――ドガァンッ!!
背後では、相変わらず妖怪が結界を殴り続けていた。
「……あ、そうだ」
上級術師が振り返る。
「二人とも、ちょっとお願いねー」
上級術師が声をかける。
その後方から、二人の術師が姿を現した。
彼のお付きだった。
「はい」
「まず、あっちで伸びてるやつ。安全な場所まで運んであげてー」
「承知しました」
一人がすぐに駆け出した。
「それから、そっちは……」
上級術師が悠太たちへ目を向ける。
地面に座り込んだ悠太。
その背後で、まともに立つことすらできなくなっている四人の分家。
「この五人、結界で守っててー」
「かしこまりました」
もう一人のお付きが、悠太たちの前へ進み出る。
片手をかざした。
――キィィンッ。
五人を囲むように、結界が展開される。
「……っ」
悠太が顔を上げた。
「誠人様、こちらでお休みください」
「……あ、はい……」
お付きは悠太の傷を確認すると、わずかに表情を曇らせた。
「……ひどいお怪我ですね」
「……まぁ……ちょっと……」
『……ちょっとではありません』
『……ん……』
その間も――
――ドゴォンッ!!
――ガァンッ!!
妖怪は、上級術師の結界を殴り続けていた。
しかし、ひび一つ入らない。
「……さてと」
上級術師が妖怪へ向き直った。
「じゃあ、ちょっと行ってくるねー」
まるで、近所へ散歩にでも出かけるような口調だった。
「…………」
悠太は呆然とその背中を見つめた。
「……なんや……」
* * *
上級術師が一歩踏み出す。
同時に、妖怪との間を隔てていた結界が消えた。
「…………」
にたり。
妖怪の口元が、大きく吊り上がった。
――ダンッ!!
妖怪が飛び出す。
その速度は、悠太たちを圧倒したものと変わらない。
一瞬で上級術師の懐へ入り込み、拳を振り抜いた。
――ブォンッ!!
「……おっと」
上級術師が、わずかに首を傾ける。
拳が頬の横を通過した。
続けて、妖怪の左拳。
しかし、それも軽く身体をひねってかわした。
「…………」
妖怪がさらに踏み込む。
右。
左。
蹴り。
肘。
人間の格闘に似た連撃。
だが、その関節は不自然に曲がり、ありえない角度から攻撃が飛んでくる。
――ブンッ!!
――ドッ!!
――ブォンッ!!
上級術師は、そのすべてを最小限の動きでかわしていた。
「……へぇー」
妖怪の腕が、ぐにゃりと曲がる。
「関節、そんな方向にも曲がるんだ」
その瞬間。
――グンッ!!
妖怪の腕が一気に伸びた。
上級術師の顔面へ迫る。
「……あ、伸びるんだ」
――パシッ。
片手で、腕を受け止めた。
「…………!?」
結界の内側で、悠太が目を見開いた。
「……え?」
あれほど苦戦した攻撃。
その腕を、上級術師は片手で掴んでいた。
「……っ、はぁ……」
悠太は息を呑んだ。
次の瞬間。
上級術師が、掴んだ腕を軽く引いた。
――グンッ!!
妖怪の身体が前へ引き寄せられる。
「はいっ」
――ドゴォッ!!
膝が妖怪の腹部にめり込んだ。
「…………!!」
妖怪の身体が折れ曲がる。
さらに、上級術師がその背中に手を添えた。
――ドンッ!!
地面へ叩きつける。
――ズドォンッ!!
土煙が舞い上がった。
* * *
「…………」
悠太は口を開けたままだった。
「……うそやろ……」
その横で、四人の分家も声を失っていた。
「……あの妖怪を……」
「……あんな簡単に……?」
それまで、五人がかりで必死に食らいついていた相手だった。
天武闘衣による身体強化。
霊力の足場。
拘束術。
防御結界。
あらゆる手段を使っても、まともに押し返すことすら難しかった。
しかし、目の前の上級術師は。
「……んー?」
土煙の中を覗き込んでいた。
「……まだ動ける?」
* * *
土煙を裂いて、妖怪が再び襲いかかる。
上級術師は軽くかわし、脇腹へ蹴りを返した。
だが妖怪は着地と同時に腕を伸ばし、上級術師はひらりと跳び上がった。
しかし――
妖怪のもう一本の腕が、上空へ伸びた。
「…………!」
悠太が目を見開く。
『……上です!』
思わず欠片の声が響いた。
その直後。
――ガキィンッ!!
上級術師の頭上に、小さな結界が現れた。
伸びた拳が激突する。
「…………」
上級術師は空中で妖怪を見下ろした。
「……なるほどねー」
そして。
その小さな結界に、片足をついた。
――タンッ。
「…………!?」
悠太の目が見開かれる。
上級術師は結界を蹴り、妖怪の真上から一気に降下した。
――ドゴォォンッ!!
踵が妖怪の肩を捉えた。
そのまま地面へ叩き落とす。
――ズドォォンッ!!
地面が大きく陥没した。
「…………」
上級術師は、少し離れた場所へ静かに着地する。
「……あー」
土煙の向こうを見つめる。
「……思ったより丈夫だねー」
* * *
「…………」
悠太は何も言えなかった。
自分たちが命懸けで戦っていた相手。
その攻撃を、上級術師は当たり前のように見切っていた。
しかも、ほとんど息も乱れていない。
『……悠太』
『…………ん?』
『……これが、上級術師です』
「…………」
悠太は、ゆっくりと息を吐いた。
「……すっげぇ……」
その目は、結界の向こうに立つ上級術師から離れなかった。
しかし――
土煙の中で。
ぐちゅり。
ぐちゅ、ぐちゅ。
妖怪の折れ曲がった身体が、再び動き始めた。
「…………」
けたけたと笑いながら。
ゆっくりと、立ち上がる。
上級術師は、その姿を見つめていた。
「……あれ?」
少しだけ首を傾げる。
「……まだ笑ってるんだ」
上級術師が、小さく首を傾げた。
妖怪は身体を再生させると、再び腕を伸ばして襲いかかった。
上級術師はその連撃を難なくかわし、軽く手で払う。
攻撃が一つも届かないまま、妖怪はなおも身体をねじって迫った。
「……もういいや」
「…………」
妖怪の拳が迫る。
「……飽きちゃった」
――キィンッ!!
拳が結界に激突した。
直後。
上級術師の姿が消えた。
「…………?」
妖怪が首を動かす。
その時――
――ドゴォッ!!
横から蹴りが叩き込まれた。
「…………!!」
妖怪の身体が大きく吹き飛ぶ。
しかし、地面に落ちる寸前――
――キィンッ!!
背後に結界が現れた。
――ドガァンッ!!
妖怪が結界に激突する。
跳ね返された身体の前に、すでに上級術師がいた。
「はい」
――ドゴッ!!
腹部へ拳を叩き込む。
妖怪の身体がくの字に折れ曲がった。
さらに、上級術師がその頭を片手で掴む。
「……よいしょ」
――ズドォンッ!!
顔面から地面へ叩きつけた。
「…………!」
妖怪の腕が伸びる。
しかし――
――キィンッ!!
その腕の前に、小さな結界が現れた。
――ガンッ!!
もう一方の腕にも。
――ガンッ!!
妖怪が身体をひねる。
その瞬間、今度は足元に結界が現れた。
「…………!?」
逃げようと踏み込んだ足が、結界に阻まれる。
「……あれ?」
上級術師が首を傾げた。
「どこ行くの?」
* * *
「…………」
悠太は、呆然とその光景を見つめていた。
「……なんや、あれ……」
妖怪が何度逃れようとしても、その先に結界が現れる。
腕も脚も、思うように動かせない。
妖怪の口元から、笑みが消えた。
* * *
「……ん?」
上級術師が、その変化に気づいた。
「……あれ、笑わなくなった?」
妖怪が、勢いよく腕を振り上げた。
――ドゴォンッ!!
結界を殴りつける。
しかし、壊れない。
さらにもう一撃。
――ドガァンッ!!
びくともしない。
「…………!」
妖怪が後方へ跳んだ。
だが――
――キィンッ!!
背後に結界。
「…………!?」
着地しようとした足元にも。
――キィンッ!!
そして左右にも。
――キィンッ!!
――キィンッ!!
一瞬にして、妖怪の周囲が結界で囲まれた。
「…………!」
妖怪の身体が大きく膨れ上がる。
皮膚の下で何かが蠢き、腕が何本にも分かれようとした。
その瞬間。
「……あ、それもなしね」
上級術師が指を動かす。
――ギィィンッ!!
結界が、一斉に内側へ迫った。
膨れ上がった身体が押し戻される。
「…………!!」
妖怪が暴れる。
拳を叩きつける。
脚を振り回す。
しかし、結界は少しずつ、確実に妖怪の動ける空間を狭めていった。
「…………!」
妖怪の顔が歪む。
さっきまで、けたけたと笑い続けていた口が、大きく開いた。
「――ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」
初めて、苦しげな叫び声が響いた。
* * *
「…………」
結界の内側で、悠太が息を呑んだ。
『……すごい……』
欠片の声も、わずかに震えていた。
目の前の妖怪は、あれだけ自分たちを追い詰めた相手だった。
何度殴っても倒れず、拘束も一瞬で破壊し、結界を何重にも砕いた。
その妖怪が。
今は、逃げることすらできずにいた。
「…………」
上級術師がゆっくりと近づく。
「……さて」
妖怪が牙を剥いた。
「――ガァァッ!!」
残されたわずかな隙間から、腕を伸ばす。
その拳が上級術師へ迫った。
しかし。
――パシッ。
上級術師が片手で受け止めた。
「…………!」
「……もう終わりにしよっか」
腕を掴んだまま、上級術師が一歩踏み込む。
そして――
――ドゴォォンッ!!
凄まじい一撃が、妖怪の腹部に叩き込まれた。
「――――ッ!!」
妖怪の身体が結界へ激突する。
――ドガァンッ!!
結界の内側で跳ね返り、地面へ崩れ落ちた。
「…………」
妖怪は、起き上がろうとした。
しかし、腕をつく前に結界がその動きを封じる。
脚も。
胴体も。
次々と固定されていく。
「…………!!」
妖怪が必死に身体をねじった。
だが、動かない。
上級術師はその正面にしゃがみ込んだ。
「……うん」
動けなくなった妖怪の顔を覗き込む。
「やっと静かになったねー」
「……あ、そうだ」
何かを思い出したように口を開く。
「ねえ、君さー」
「…………」
「……術師、何人食べたの?」
「…………」
妖怪は答えない。
ただ、歯を剥き出しにして上級術師を睨みつけていた。
「…………」
「……あれ、喋れない?」
妖怪が低く唸る。
「……んー」
上級術師は少し考えるように首を傾げた。
「……まぁ、いいかー」
ゆっくりと立ち上がる。
「……じゃあ、そろそろ」
上級術師が片手を上げると、結界が妖怪の身体へさらに密着した。
「――ギィィッ!!」
妖怪は必死に暴れたが、手足はびくとも動かない。
「……よし」
上級術師が手のひらを妖怪へ向ける。
その瞬間。
――キィィィン……。
結界の内側に、淡い光が灯った。
「…………?」
妖怪が動きを止めた。
光は、少しずつ強くなっていく。
「…………!」
妖怪が再び暴れ始めた。
しかし、先ほどまでとは明らかに様子が違っていた。
「――ギィィィィッ!!」
何度も結界を殴りつける。
身体を膨らませ、無理やり抜け出そうとする。
それでも――
「……無理だよー」
上級術師が、静かに告げた。
「もう逃げられないから」
* * *
「…………」
悠太は、結界の内側からその光景を見つめていた。
『……悠太』
『……ん?』
『……あれほどの霊力を、あんなに精密に……』
「…………」
悠太には、欠片の言っていることの半分も分からなかった。
ただ一つ。
目の前で起きていることが、とんでもないということだけは分かった。
「……すっげ……」
* * *
妖怪を包む光が、さらに強まる。
「――ギャアアアアッ!!」
妖怪の皮膚が、ぼろぼろと崩れ始めた。
腕が裂ける。
脚が崩れる。
しかし、そこから再生することはなかった。
「…………!!」
妖怪が、必死に腕を伸ばす。
上級術師へ向かって。
だが、その腕も途中から光に呑まれていく。
「……さて」
上級術師が、軽く息を吐いた。
「……おしまい」
――カッ!!
結界の内側が、真っ白な光に包まれた。
「――――ッ!!」
妖怪の姿が、光の中へ消えていく。
腕も。
脚も。
あの不気味な笑みを浮かべていた顔も。
すべてが、光に呑まれていった。
そして――
――スッ……。
光が消えた。
「…………」
そこには、何も残っていなかった。
* * *
静寂。
あれほど激しく響いていた衝撃音も。
不気味な笑い声も。
すべてが消えていた。
「…………」
四人の分家は、言葉を失っていた。
悠太も、呆然とその場所を見つめていた。
『……祓われました』
欠片が静かに告げる。
『……完全に』
「…………」
悠太は、ゆっくりと上級術師へ視線を移した。
上級術師は、何事もなかったかのように手を下ろした。
「……ふぅ」
軽く肩を回す。
「……終わった終わったー」
「…………」
悠太の口が、ぽかんと開いた。
「……えぇ……」
「ん?」
上級術師が振り返る。
「どしたのー?」
「…………」
悠太は、先ほどまで妖怪がいた場所を指さした。
「……いや……」
「うん?」
「……あれ……」
「んー?」
「……ひとりで……?」
上級術師が、不思議そうに首を傾げる。
「……うん。祓ったよ?」
「…………」
悠太はしばらく黙っていた。
そして。
「……え…ぐ……」
ぽつりと呟いた。
上級術師は、きょとんとした顔で悠太を見つめていた。
「じゃあさー、ちょっと聞いていい?」
「……ん?」
「今回、何の任務だったっけ?」
「……調査ですけど……」
「そうだよねー」
上級術師が頷く。
「じゃあ、妖怪を討伐しろって命令されてた?」
「……いや……」
「されてないよねー?」
「……はい」
「じゃあさ、異常があったらどうするんだっけ?」
「…………」
悠太の表情が固まる。
「……撤退……」
「そうそう。ちゃんと覚えてるじゃん」
にこにこしながら頷く上級術師。
「……で?」
「…………」
「なんでこんなボロボロになってるのー?」
「……いや、それは……」
「んー?」
起きたことをそのまま話した。
上級術師は少し考えた。
「……それはしょうがないかー」
「…………」
「救援要請もちゃんと出してたみたいだしねー」
そう言って、くるりと背を向ける。
「じゃ、帰るねー」
そのまま歩き出した。
「…………」
悠太は、呆然とその背中を見つめていた。
しばらくして、救護班が到着した。
「負傷者を確認! 担架を!」
救護班が次々と駆け寄ってくる。
悠太はその場に座り込んだまま、手当てを受けていた。
「……いてて……」
「動かないでください。かなりの重傷です」
「……はい……」
別の救護班が、倒れている四人の分家のもとへ向かう。
「こちらも霊力の消耗が激しい。すぐに搬送を!」
四人は救護班に支えられながら、次々と担架に乗せられていった。
気を失っていた本家術師も、お付きの一人によって安全な場所へ運ばれており、そのまま救護班
に引き渡された。
「……っつぅ……」
悠太も担架に乗せられる。
その時、ふと妖怪がいた場所へ目を向けた。
地面には、激しい戦闘の跡が残っていた。
悠太は小さく息を吐いた。
やがて、負傷者の搬送準備が整った。
悠太と四人の分家、そして本家術師を乗せた救護班は、現場を後にした。




