↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
25/41

第二十五話 四十九日

* * *

それからも、悠太は修行と任務を繰り返していた。

妖怪の出現は増え続けていたが、悠太もまた、少しずつ力をつけていた。

そんな日々の中で、時は過ぎていった。

そして――

四十九日目。

* * *

夜。

自室に戻った悠太は、いつものように布団へ寝転がった。

「……あー、今日も疲れた!」

『……お疲れ様です』

「ほんま、最近妖怪多すぎひん?」

『……そうですね』

「明日も任務やし、はよ寝なあかんなぁ」

『…………』

「……ん?」

欠片から返事がなかった。

「……欠片?」

『……悠太』

「……なんや?」

『……今日で、四十九日目です』

「…………」

悠太の表情から、笑みが消えた。

「……あ」

忘れていたわけではない。

ただ、毎日の忙しさの中で、いつの間にかその日を迎えていた。

「……そっか」

『……はい』

「…………」

しばらく沈黙が続いた。

「……なあ」

『……はい』

「……ほんまに、消えるんか?」

『…………』

『……はい』

悠太は天井を見つめた。

1

「……俺のせいか?」

『……違います』

欠片は静かに答えた。

『僕は、もともと消された魂です』

『その欠片が、四十九日間だけ、この身体に留まっていたんです』

『……だから、あなたのせいではありません』

「…………」

『……悠太』

「……ん?」

『あなたに出会えて、よかったです』

「…………」

『最初は、どうなることかと思いましたけど』

「……なんやそれ」

悠太は小さく笑った。

『本当に、騒がしい人ですから』

「……うっさいわ」

『……ふふ』

二人の間に、静かな時間が流れた。

『……悠太』

「……ん?」

『……一つ、伝えておかなければならないことがあります』

「……なんや?」

『…………』

『……本当は、もっと早くお話しするべきだったんですが……』

「……?」

『……僕は、あなたに……』

その時だった。

『…………っ』

「……欠片?」

返事がなかった。

「……おい?」

『……すみません』

その声は、いつもより小さかった。

『……そろそろ、限界のようです』

「…………」

悠太は身体を起こした。

「……ちょっと待てや」

『……悠太?』

「……なんか方法ないんか?」

『…………』

『……ありません』

「……ほんまに?」

『……はい』

「…………」

悠太は黙り込んだ。

そして、ふと何かに気づいたように顔を上げた。

「……あれ?」

『……?』

「……なあ、欠片」

『……はい』

「……ほな、俺の魂に入ればええんちゃうか?」

『…………』

『……は?』

『そんなこと無理に決まってます!!』

「なんでやねん! 今も二人おるやん!」

『それは同じ身体に留まっているだけであって、魂の中に別の魂を入れるなんて……!』

「でも、前に教えてくれたやろ?」

『……何をですか?』

「魂を器に入れる術!」

『…………』

「俺の魂を器にしたらええんちゃう?」

『……そんな、簡単な話では……』

「……廻生のやり方は知ってるんか?」

『……それは、知っていま――』

「……ほな、教えて」

『……悠太』

「……なんや?」

『廻生は、魂を肉体に宿すための禁術です』

『それを魂そのものに使うなど、聞いたこともありません』

「……うん」

『それに、術式は非常に複雑です。少しでも制御を誤れば……』

「……誤れば?」

『あなたの魂まで損傷する可能性があります』

「…………」

悠太は少しだけ黙った。

そして、笑った。

「……ほな、失敗せんように教えてや!」

『…………』

『……あなたって人は、本当に……』

「……へへっ」

欠片は小さく息をつくように間を置いた。

「俺ら今までずっと同じ身体におったんやろ?」

『……それは、そうですが』

「しかも、この身体は陰陽師の身体や」

『…………』

「俺、まだ四十九日経ってへんし」

悠太はニッと笑った。

「試してみてもええやろ?」

『……悠太』

『成功する保証なんてありませんよ』

「……うん」

『あなたの魂にも、何が起こるか分かりません』

「……うん」

『それでも……?』

悠太は少し考えた。

そして、笑った。

「……消えるの見てるだけなんて、嫌やしな」

『…………』

「それに、まだまだ教えてもらわなあかんことあるねん」

『……悠太』

欠片は、しばらく何も言わなかった。

やがて――

『……まったく』

『……あなたという人は』

「……へへっ」

『……分かりました』

『やってみましょう』

悠太は目を閉じた。

器は肉体ではなく――自分自身の魂。

『……悠太、集中してください』

「……おう」

意識を深く沈める。

自分の内側にある、二つの魂。

そのうちの一つが、今にも消えようとしていた。

『……まず、悠太の魂と僕の魂を感じ取ってください』

「……魂を?」

『はい。意識を身体の内側へ集中させてください』

「……わかった」

悠太は目を閉じ、意識を集中させた。

「…………」

しばらくして――

「……あった」

『……感じ取れましたか?』

「……おう。二つある」

『……それです』

『一つがあなたの魂。そして、もう一つが僕の魂です』

悠太は目を閉じたまま、静かに頷いた。

『……では、次に進みます』

「……おう」

『まず、僕の魂を霊力で包み込んでください』

悠太は意識を集中させた。

先ほど感じ取った、二つの魂。

そのうちの一つへ、慎重に霊力を近づけていく。

『……そうです。そのまま、ゆっくりと』

「…………」

『……っ! 待ってください!』

悠太はすぐに霊力を止めた。

「……どうした?」

『霊力が強すぎます。もう少し抑えてください』

「……わかった」

再び、霊力を流す。

しかし――

『……まだ強いです』

「…………」

悠太は眉を寄せた。

「……これ以上、抑えるんか?」

『はい。魂は非常に繊細です。慎重に扱わなければなりません』

「……わかった」

悠太は霊力をさらに絞った。

やがて、欠片の魂が薄い霊力の膜に包まれる。

『……できました』

「……次は?」

『ここからが問題です』

『本来、廻生は肉体を器とする術です。しかし今回は、あなた自身の魂を器にしなければなりま

せん』

「…………」

『まず、あなたの魂を中心に、廻生の術式を構築していきます』

欠片は術式の構造を、一つずつ説明していった。

悠太はその指示に従い、霊力を動かす。

だが、少しでも流れを誤れば、組み上げた部分が崩れてしまう。

「……くっ」

『……そこは違います。もう少し内側へ』

「……こうか?」

『……はい。その位置です』

「…………」

『次に、僕の魂を包んでいる霊力と、術式をつないでください』

悠太は慎重に霊力を伸ばした。

二つの魂の間に、細い光が生まれる。

『…………!』

「……欠片?」

『……いえ、続けてください』

欠片はわずかに動揺していた。

本来であれば、膨大な霊力と高度な制御を必要とする術式。

その一部を、悠太はすでに構築し始めていた。

だが――

『……っ』

突然、欠片の魂が揺らいだ。

「……!?」

『……時間が、ありません』

霊力の膜の内側で、欠片の魂が少しずつ薄くなっていく。

「……次、どうしたらええ?」

『……残りの術式を、つなげてください』

「……わかった」

悠太は再び意識を集中させた。

しかし、術式はまだ完成していない。

そして欠片の魂は、今も消え続けていた。

『……悠太』

「……なんや?」

『術式は、ほぼ完成しています』

『……これから詠唱に入ります』

「…………」

『僕の言葉を、復唱してください』

「……わかった」

悠太は目を閉じ、意識を集中させた。

『……生と死の狭間に在る魂よ』

「……生と死の狭間に在る魂よ」

二つの魂を繋ぐ霊力が、かすかに光を帯びる。

『……巡る縁を断つことなく』

「……巡る縁を断つことなく」

『……消えゆく魂の灯を繋ぎ留め』

「……消えゆく魂の灯を繋ぎ留め」

欠片の魂を包み込む霊力が、静かに脈打つ。

『……新たなる器(魂)に、宿り給え』

「……新たなる器(魂)に、宿り給え」

『……廻生』

「……廻生!!」

「…………」

しかし、何も起こらなかった。

術式は発動せず、二つの魂にも変化はない。

「…………」

悠太は再び意識を集中させた。

「…………っ」

しかし、何も起こらなかった。

「……くそっ!」

その瞬間――

ぐらり、と視界が揺れた。

「……っ!?」

突然、全身から力が抜ける。

『……悠太!?』

欠片の声が聞こえた。

だが、返事をする間もなく――

悠太はその場に倒れ込んだ。

そして、意識を失った。

* * *

悠太は、意識を失った。

そして――

欠片に残された四十九日という時間が、終わりを迎えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。