第二十三話 再び集う五人
それからも、悠太は修行と任務を繰り返していた。
地上での瞬間加速。
空中での霊力放出。
五芒陣の精度を高める訓練。
失敗することもあったが、以前よりも霊力の扱いは確実に安定してきていた。
任務でも、さまざまな妖怪と戦った。
時には指導役と。
時には別の本家術師たちと。
下級妖怪の討伐だけでなく、周辺の警戒や調査に同行することもあった。
安倍家全体でも、訓練と討伐が続けられていた。
しかし、各地で起きている妖怪の異変については、いまだ原因が分かっていなかった。
* * *
ある日の夜。
悠太は自室のベッドに寝転んでいた。
「……あー、疲れたぁ」
『……今日もよく動きましたね』
『……せやろ?』
しばらく天井を眺めていた悠太が、ふと口を開く。
『……なあ、欠片』
『はい』
『……四十九日、やったよな』
『…………』
『……お前が消えてまうん』
『……はい』
「…………」
悠太は、少しだけ黙った。
『……時間、減ってきたな』
『……そうですね』
『…………』
そして、いつもの調子で言った。
『……ほな、もっと頑張らなあかんな!』
『……何をですか?』
『いろいろや!』
『……いろいろ、ですか』
『せや!』
欠片は小さく息をついた。
『……本当に、あなたという人は』
『……なんやねん』
『……いえ、何でもありません』
悠太は笑った。
『……ほな、おやすみ!』
『……おやすみなさい』
部屋に静けさが戻った。
四十九日。
その期限は、今も確実に近づいていた。
* * *
翌朝。
安倍家の任務受付。
「……おっ、今日も任務か!」
悠太は渡された書類へ目を通していた。
「今回も六名での出動となります」
「……六人?」
「はい。本家二名、分家四名です」
「……おっけー!」
悠太は集合場所へ向かった。
* * *
安倍家の門前。
すでに数人の術師が集まっていた。
「……ん?」
見覚えのある顔。
一人。
二人。
三人。
そして、四人目。
「……あれ!?」
悠太が声を上げた。
四人が振り向く。
「……誠人様!?」
「……お前らやん!!」
悠太は嬉しそうに笑った。
「また一緒なん!?」
「……はい。私たちも先ほど知りました」
四人も少し驚いた様子だった。
「……ははっ! なんや、よう会うなぁ!」
悠太は四人を見渡した。
以前、資材置き場でともに戦った者たち。
そして、孤児院の任務でも一緒だった四人。
「……そういや、もう怪我は大丈夫なん?」
悠太が一人へ尋ねた。
「はい。問題ありません。任務にも復帰しています」
「……そっか! よかったわ!」
悠太はニッと笑った。
「ほな、今日もよろしくな!」
「……はい!」
四人が頭を下げた。
そのとき。
「……全員、揃ったか」
もう一人の本家術師が姿を現した。
六人が顔を向ける。
「今回の任務について説明する」
一同が姿勢を正した。
悠太も書類を持ち直す。
『……悠太』
『……ん?』
『……随分と嬉しそうですね』
『……そらそうやろ』
悠太は四人へ目を向けた。
悠太は、目の前の四人を見渡した。
「……へへっ」
『……悠太?』
『……なあ、欠片』
『はい?』
『……俺、決めた!』
『……何をですか?』
『……まぁな!』
『…………?』
悠太は一人、楽しそうに笑っていた。
『……悠太、何を決めたんですか?』
『……そのうちな!』
『……まったく、何なんですか……』
* * *
それからも、各地で妖怪の出現が相次いでいた。
討伐の依頼は増え、安倍家の術師たちは連日のように任務へ向かっていた。
しかし、術師たちも以前のままではなかった。
修行と実戦を重ね、少しずつ力をつけていた。
悠太も、その一人だった。
* * *
ある日のこと。
「……今回は五人ですか?」
分家の一人が、渡された任務書を確認した。
「そうだ。誠人様を中心に、お前たち四人で向かってもらう」
「……承知しました」
悠太は四人を見渡した。
「……おっ! 俺らだけやん!」
「……そうですね」
「よっしゃ! ほな行こか!」
四人は顔を見合わせ、小さく頷いた。
* * *
山中の廃道。
「……二体、いや三体います」
分家の一人が周囲の気配を探った。
「……右奥にも反応があります」
「おっけー!」
悠太は符を取り出した。
「ほな、いつもどおり頼むで!」
「はい!」
三人が前方へ展開する。
「結界、展開!」
光の壁が形成された。
その横から、一体の妖怪が飛び出してくる。
「……来ます!」
「おー!」
悠太が地面を蹴った。
――ダンッ!
一瞬で妖怪の側面へ回り込む。
「拘束!」
光の帯が妖怪を捉えた。
その間に、別の分家が祓いの符を構える。
「……祓います!」
妖怪が光に包まれ、消えていく。
しかし、奥から二体目が飛び出した。
「誠人様、後方です!」
「おう!」
悠太は振り返り、軽く跳び上がった。
足裏から霊力を放出する。
――シュッ!
空中でわずかに軌道を変え、妖怪の攻撃をかわした。
そのまま着地する。
「……よっしゃ!」
『……今のは上手く制御できましたね』
『……せやろ!』
「誠人様!」
「おっと!」
悠太はすぐに前へ向き直った。
「……まずはこっちやな!」
その後も、五人は声を掛け合いながら妖怪を追い詰めていった。
拘束。
防御。
祓い。
誰か一人が無理をすることなく、互いの動きに合わせて戦う。
やがて、最後の妖怪が消えた。
「……討伐完了です」
「よし!」
悠太は嬉しそうに両手を上げた。
「みんな、お疲れ!」
「……お疲れ様でした」
四人の表情にも、安堵が浮かんでいた。
* * *
任務を終え、帰路につこうとしたとき。
「……あ、ちょっと待って!」
悠太が四人を呼び止めた。
「……誠人様?」
「ちょっと話あんねんけど」
四人が足を止める。
「……何でしょうか?」
「……あのさ、お付きってあるやん?」
「…………」
四人の表情が変わった。
「……はい」
「俺、最近知ってんけどな」
悠太は四人を見渡した。
「……これからも、お前らと一緒に戦えたらええな思ってんねん」
「…………」
「今日もめっちゃ動きやすかったし、なんか安心するやん?」
悠太はニッと笑った。
「……せやから、俺のお付きになってくれへん?」
「…………」
四人は黙り込んだ。
お付き。
本家の者に直属で仕え、その護衛や任務の補佐を担う、分家の中でも特別な立場。
お付きに選ばれることは名誉とされ、待遇も向上する。
そして、分家の者が上級術師へと昇進するためには、必ず通らなければならない道でもあった。
だが、その代償はあまりにも大きい。
お付きとなった者は生家の籍から外され、家族との面会や連絡を禁じられる。
たとえ肉親が亡くなろうとも、その葬儀に参列することすら許されない。
さらに、お付きの地位は仕える主人によって左右される。
主人に見限られ、解任されれば、術師としての資格さえ失う。
生家に戻ることも許されず、行き場を失うことになる。
また、上級術師への昇進には主人の推薦が不可欠とされていた。
どれほど優れた実力を持っていても、主人が認めなければ、その先へ進むことはできない。
そして、四人は知っていた。
かつて自分たちと共に修行に励んでいた同期が、お付きとなり、不幸な人生を歩んでいったこと
を。
中には、類まれな才能を持つ者もいた。
しかし、その力を仕える本家の者に妬まれ、昇進の道を閉ざされた者。
理不尽な理由で見限られ、すべてを失った者。
実力があることすら、身を滅ぼす理由となり得る。
それが、お付きという立場だった。
四人のうちの一人は、拳をきつく握りしめていた。安倍家の制度が、人の人生をこうして縛るこ
とが許せなかった。大切な仲間にまで同じ思いをさせたくはなかった。
四人は悠太を信頼していた。
幾度も共に戦い、その人柄も知っている。
それでも。
一度お付きになれば、自分たちの人生を大きく左右することになる。
簡単に答えを出せるはずがなかった。
そして――
悠太は、そこまでの規則があることを知らなかった。
ただ、これからも四人と一緒に戦いたい。
その思いから口にした言葉だった。
四人は悠太を信頼していた。
幾度も共に戦い、その人柄も知っている。
信頼はしている。
しているが、それだけでは――。
お付きになるということは、自らの人生を主人に委ねるということ。
一度その道を選べば、後戻りはできない。
だが、そもそも。
分家の者に、選ぶ権利などなかった。
本家からお付きに指名されれば、拒否することは許されない。
たとえどのような主人であろうとも、従うほかなかった。
考える時間を与えられることすら、通常はない。
「…………」
四人は黙り込んだ。
悠太はそんな四人を見渡し、いつものように笑った。
「……考えてみてほしい!」
それだけ告げると、先に歩き出した。
四人はしばらく、その背中を見つめていた。




