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第二十一話 心の修行


それから数日後。

医師から訓練再開の許可が下りた悠太は、久しぶりに訓練場を訪れていた。

「誠人様。お身体はもうよろしいのですか?」

「うん! だいぶ元気なったで!」

「それは何よりです。ですが、今日は無理をなさらないように」

「おっけー!」

いつものように笑って答える。

しかし、悠太はすぐには訓練を始めなかった。

「……なあ、先生」

「はい?」

「……ちょっと相談してもええ?」

指導役が悠太へ向き直った。

「もちろんです」

「…………」

悠太は少し俯いた。

「……俺、前の任務で感情抑えられへんかってん」

「…………」

「……途中から全然覚えてへんねんけど、めっちゃ暴れたらしくて……」

悠太は自分の手を見つめた。

「……それで、みんなの連携も崩してもうた」

指導役は黙って聞いていた。

「……またあんなんなったら…」

「……ええ」

「せやから……」

悠太は顔を上げた。

「……そういうんも、修行で何とかできひんかな?」

指導役は少し考えた。

「……感情の制御、ですか」

「うん」

「……難しいですね」

「……そっか?」

「感情そのものを、術で消すことはできませんから」

「…………」

「ですが、強い感情に左右されず、霊力を扱う訓練ならできます」

悠太の表情が変わった。

「……ほんま!?」

「ええ。ただし、簡単ではありませんよ」

「……そっか」

指導役は訓練場の中央へ歩いた。

「誠人様。これまでの訓練を思い出してください」

「……ん?」

「最初は、符へ霊力を流すだけでも苦労していましたね」

「……うん」

「……うん」

「ですが、今は必要な量をある程度調整できるようになりました」

「それは、落ち着いて集中できる環境で、何度も繰り返してきたからです」

指導役は振り返った。

「ですが、実戦ではどうでしょう?」

「…………」

「敵の攻撃、仲間の声、予想外の出来事。そのすべてが集中を乱します」

「……確かに」

「ですから、これからは集中が乱れた状態でも、霊力を制御する訓練をしましょう」

「……うん!」

悠太は少し笑った。

* * *

指導役は地面に三つの標的を並べた。

「まずは、これまでと同じです。霊力を一定量だけ流し、符の光を維持してください」

「おっけー!」

悠太が符を構える。

ポウッ。

淡い光が灯った。

「……よし」

「そのまま維持してください」

「……おう」

十秒ほど経った、そのとき。

――パンッ!

突然、横から大きな音が響いた。

「うわっ!?」

パァッ!!

符が一瞬、強く輝いた。

「……あっ!」

次の瞬間、光が消える。

「…………」

悠太は指導役を見た。

「……びっくりした!」

「そのとき、霊力はどうなりましたか?」

「……めっちゃ流れてもうた」

「そうですね」

指導役は頷いた。

「驚いた瞬間、無意識に霊力を流しすぎています」

「……なるほどな」

「今度は、何が起きても流す量を変えないようにしてみてください」

「……おっけ!」

再び符を構える。

光が灯る。

今度は音がすることを警戒していた。

しかし――

シュッ!

横から別の符が飛んできた。

「……え!?」

悠太は咄嗟に身体をひねった。

その瞬間。

パッ!!

手元の光が消えた。

「……あかん!」

「今は身体を動かすことに意識が向きすぎましたね」

「……くそ!」

『……悠太』

欠片が口を開いた。

『普段なら無意識にできることも、別のことに気を取られると難しくなるんですよ』

『……ほんまやな』

悠太は符を見つめた。

何度も訓練を繰り返した。

突然の物音。

予想外の方向から飛んでくる符。

複数の標的を同時に確認する訓練。

最初は、驚くたびに霊力が乱れていた。

しかし、少しずつ。

ほんの少しずつではあるが、余計な霊力を流さずに対応できるようになっていった。

「……っ!」

シュッ!

飛んできた符をかわす。

それでも、手元の光は消えない。

「……おっ!」

指導役が頷く。

「……今のはよかったですね」

「……できた!」

悠太は嬉しそうに笑った。

「あっ」

光が強くなる。

「……誠人様」

「……へへっ」

「……喜ぶとすぐ乱れますね」

『……そこも練習やな!』

* * *

休憩中。

悠太は訓練場の端に腰を下ろしていた。

「今回の訓練は、あくまで霊力の制御を高めるものです。強い感情に襲われたとき、必ず冷静で

いられるとは限りません」

「…………」

「だからこそ、もう一つ覚えていただきたいことがあります」

「……ん?」

「自分では制御できないと感じたら、周囲に伝えることです」

悠太は顔を上げた。

「……周りに?」

「ええ。任務は一人で行うものではありませんから」

「…………」

悠太は少し考えた。

あの孤児院で、自分を守ってくれた分家の四人。

負傷した本家の術師。

そして、自分を止めた上級術師。

「……せやな」

悠太は小さく頷いた。

「……次は、ちゃんとみんなに頼るわ」

指導役は静かに頷いた。

「それがいいと思います」

「……よっしゃ!」

悠太は立ち上がった。

「ほな先生、続きやろ!」

「……もう少し休憩してからにしましょう」

指導役が小さく笑った。

指導役の術師は、いつの間にか悠太を認めていた。

訓練場には、いつもの悠太の声が戻っていた。

けれど。

悠太はもう、自分の力だけで何とかしようとは考えていなかった。

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